そんなに現代の貧困の話してないけど吉本隆明『貧困と思想』

貧困と思想

貧困と思想

 なんというか、俺が鈴木大拙について初めて読んだのは『鈴木大拙随聞記』だったし、『正法眼蔵』は読んでないけど『正法眼蔵随聞記』は読んだとか、そういうわけで、ようしらんが多く出ているような吉本隆明のそういうの。まあ、借りるのならということで。
 で、なんというか、いろいろの思い出話や自作への言及とか、ファンにはたまらないのかもしらんし、俺とていくらか好きなので面白くはある。ただ、聞いた話も多いし、なんかここまで銘打つなら、というような気もするが、そういうツッコミは野暮なのかもしらんし、俺があほうなだけかもしらん。
 そんで、これ、ちょっと前の蟹工船ブーム(って、どんくらいブームになったのかしらんが)のころの話で、今は第二の敗戦期だし流行るだろうみてえな。でも、現代の文学の中から出て来てない、みたいなこと言ってて、まあ俺は現代文学しらんのでようわからん。わからんが、こないだ見た映画『国道20号線』とかなんかしらんがなにかしら現代のあれをなにしてるみてえのは出てきてるだろうし、どっかに転がってたりしねえかと思う。ちなみに、プロレタリア文学で公正に判断して文学者としてどこにでも通る作家は小林多喜二中野重治しかいませんでした、ってさ。読んでみるか? つーか、夏目漱石とか太宰治とか一冊くらい読まなきゃ、俺。坂口安吾はわりと読んだけど。
 あと、マルクスエンゲルス産業革命について過重労働みたいなことになって肺結核が蔓延したことについて指摘してたけど、現代ではそれが精神病なのにあんまり指摘されてないみたいなこと言ってて、いや、されてんじゃねえか? とか思った。三万人死んでるし。
 それと、あと、最後の方で貧困と違和みたいな話してて、そこはなんかよかったというか。

  全部表に出したら世界の外に置かれてしまうのではないか、という感じが自分で怖かったり、そういうふうに感じる自分はおかしいのではないかと考えたりもしました。そういう感じ方は自分のどこからくるのだろう、としきりに考えて、一つには貧困というところから来るのかな、と。貧困あるいは富という問題は、大きく言えばどこの集団においても出たり引っ込んだりしますし、自分一人で考えたりもします。しかし、いい考え方というのはみつからない。自分の中だけでごてごてしているような――こだわりは溶けないし、そこから抜けることもできないというようなことに、皆それぞれが陥ってるのではないかと思います。

 これが「関係」についての実感的な部分という。なんつーか、80を過ぎてこういう言葉が出てくるのは、いや、俺に80を過ぎた人間を評価するものさしみたいなもんもないんだけれども、ちょっとすげえって思ったりしたわけで。なんかわからんけどさ。そう、偶然大金持ちに生まれたら、奢りになることもあれば、抑圧になることもある。貧困でも逆に過剰な問題になったり、抑圧になりもする。関係性の中で、それを出しすぎるのは、貧困の場合でも金持ちがそれを出しすぎるのと一緒でおかしいところがあるんじゃないか。でも、だからといって回答は見つかってないと。親は選べない、と。

存在した(生まれた)ときに場所としてそこにおかれたということは文句なしに絶対的なもので、これを動かすことはできない。こういう絶対性というのは、一般的に考えられているほど簡単なことじゃないよ、と僕は思ってきたわけですが、やはりそれが根本にありますね。

 まあ、まったく卑近というか自分についていえば、なんかやっぱり生まれ育ちについてのある種のコンプレックスのようなものはある。一億総中流時代にたしかに中の上の生まれだったし、文化資本も恵まれてきたといっていい。かといって、結局親の商売がうまくいかなくなって、今、この、変えるべき場所もない根無し草みたいな「周辺的正社員」(だっけ?)、ワーキングプアみてえになっててさ。ありがちな転落話だろうけど、なんかこう、本当に地べたから「貧しいぞ!」って下から目線する資格あんのかよ? みたいなもんはすげえあって。いや、フルカーボンのロードバイクに一眼レフのデジカメ持ってて、それでも明日はない、みたいな中途半端さというか。もちろん、金持ちから見たら、「貧困はここまで自己認識を狂わせるのか」というていどの話だろうが。
 で、さらに言えば、これもある程度は絶対的なものかもしらんが、ある種の賢さについても、いくら高卒だと言ったところで、大学に入るところまでは行ったくらいのなにかはあって、あんまりこれも下から目線できねえんじゃねえかというか。まあ、これも真のインテリから見たら「(以下略)」。
 まあともかく、なんかこう、今のところ、俺が誰かを判断する基準はそいつの収入とか資産とか、ともかく金が第一であるのはたしかなんだけど、それは自分にもつきつけられる刃みたいなところもあって、よくわかんない。ミルクの中の蝿はわかるけど、俺がなんなのかわかんない。で、もし、「皆それぞれが陥ってる」としたら、ますます難儀なもんだろうと思うわ。まったく。おしまい。

悪人正機 (新潮文庫)

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 まあ、糸井重里のこれが圧倒的におもしろいけど。

改訂新版 共同幻想論 (角川ソフィア文庫)

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 わけわかんないけど、たまに開きたくなる。
鈴木大拙随聞記 (1967年)

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正法眼蔵随聞記 (岩波文庫)

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