おれが東名高速の防音壁に塗り込められてから、どのくらい経つのだろう。頭はどこかにいっちまったが、どうやら服を着ている胴体の方が人間の魂の在処だということらしい。もしもおれが人間だとすればの話だが。
それにしてもおれがこの東名高速の防音壁に塗り込まれる前、まだ両肩の間に首が生えていて頭があったころ、まだかろうじて頭があったころ、あの最後の日というのは忘れがたい日だった。胴体と頭を切り離されて東名高速の防音壁に塗り込められる人間にとってはだいたいそうなのかもしらんが。
そうだった、おれは女子中学生にダイコン畑から引き抜かれたのだった。おれはまったく無力で、無抵抗だった。女子中学生に力をふるったり、抵抗したりするなんて、とんでもない話じゃないか。
それでおれはどうされるのかとどきどきしていると、「ダイコンのくせにどきどきしているよ、こいつ!」などと罵倒された挙げ句、道路に転がされたんだった。
おれはいろいろな自動車に轢かれたもんだ。自動車によって、ずいぶんと轢かれる感じも違うってことも、初めて知ったっけな。それでおれは、自動車の圧倒的な質量の下で、さまざまな音と形の変化を見せてあげたんだ。そうしたら、女子中学生はけらけら笑って、おれはこのうえなく幸せだったんだ。
そのあとのことは覚えていないけれど、おれはずいぶんな幸せものには違いなかった。惜しむらくは、女子中学生に防音壁に塗り込められる記憶がないことくらいだ。そういうあたりは頭の方に持っていかれたのかもしれないな。
おれが東名高速の防音壁に塗り込められてからどのくらい経つのだろう?