さて、帰るか

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どっちに転んでも、おれは報われることのない……。押し入れにしまっておいたはずの、ヘイトもどこかにいってしまって見つからない。

「おまわりさん、ぼくのヘイトが見当たらないのですが」

「それはよいことです。ついでのその、中学生時代から引き出しにしまってるバタフライ・ナイフも捨ててしまいなさい」

雨が降っているような気配があって、ぼんやりしている。なにかが風邪をひいたら、べつのなにかは肺炎になる。おれが転んだら、だれかがダンプカーに轢かれて死ぬ。いや、死なない。おれは不滅だし、だれかも不死だ。永久不滅ポイント。

海に沈んで消えていく。森に入るより海に消えたい。おれのために、海ゆかば。ただ、塩水が口や鼻に入ってきて、呼吸ができないのはつらそうだ。だったら森の方がいいのだろうか。森には虫がいて嫌だな。虫は苦手なんだ。靴が泥で汚れるのだって嫌いだぜ。おれが魚のように呼吸できないのがいけないんだ。……消えたかったんじゃないのか?

夏が終わる気配がして、フジファブリックのあの曲がラジオから嫌になるくらい流れるのも遠くない。もう八月も半ばを過ぎた。おれに宿題はない。だが、人生でやり残して、もうどうにもならなかったものは山程ある。その重みで、やはりおれは海の底に沈んでいく。soon at the bottom of the sea。

あるいは、いろいろな公園からいろいろな骨が見つかり、いろいろな人間がもっといろいろな骨を探す。それは、海も森も拒否したおれの骨たち。おれの骨たちは青いブルー・シート(ブルー・シートの業者はなんでもっと落ち着いた青色にしようとしないんだ?)の上に並べられるだろう。

「それは目立った方がいいからだよ、工事現場とかで」

「それにしても三つも頭蓋骨があるね」

「双極に一つずつ、浮ついたところにもう一つ、だな」

おれの骨は完黙。

おまえたちに、ひとつの言質すらとられてたまるか。

そしておれは、雨の街に、しけったネオシーダーを咥えて消えていったのさ。