さて、帰るか。

 世間的にはお盆だとか夏休みの期間なのだろうが、おれにとっては電話の鳴らない好もしい週というだけだ。もっとも、おれは電話に出ないし、おれ宛ての電話も少ない。それに、おれが電話に出ると軟骨に2つ、耳たぶに1つのピアスがカチカチ音を立てて相手にも悪い。もとより零細の社内はさらに一人欠け二人欠け、まったく気楽なものだ。
 ……と、思っていたら、思いのほか忙しい。役所や役所のようなものは、基本的にカレンダー通りのものだからだ。まあ、それでも悪くない。なにより、おれが休みを取ったところでどこに行っていいかもわからない。
 東北を見ておきたくはないか? 思わないでもない。ただ、うちの会社からも役に立つことがらで出張する人がいて、それでも宿がとりにくいなどという話もあって、もっと有益な人たちに譲るべきだろう。おれはその場所が見せたくないものを見たがるし、写真に撮りたがる。いいものよりも悪いものを探す。いつでも、どこでも。
 先日、東京に行くことがあって、よその会社の人に会うというのでとりあえずピアスなしで過ごした。頭がチャンピオン時代の徳山昌守みたいな色なのは仕方ない。それで、帰宅後もそのままで一夜明けてシャワーを浴びて、軟骨にピアスを入れようとしたら、穴が塞がりかけていたというほどではないが、なかなか穴の場所もわからず、太めの軟骨用を入れるのにいくらか難儀した。外したときに向こうがスカッと見えるほどの穴になるにはまだまだ時間がかかるのかもしれない。
 二次元、というか、まあアニメの世界に耽溺したいという思いがぐっと強まることがある。テレビ画面を見ているだけではなにか足りない気がして、もっともっと耽溺したいという思い。それで、たとえば原作や関連作品のコミックスを買ったりして、それはそれで満足できるのだけれども、それはあくまで「おもしろい漫画を読んだ」というところに落ちついてしまい、耽溺には遠い。萌え方面のアニメ雑誌を買って、ピンナップを部屋の壁面に貼ってみても、慣れてしまうとただの壁でしかない。高いフィギュアを買う気というのも起こらないし、手に入れたところでどう愛でていいかわからない。
 ただ、なにかが欲しい、なにかを買うことで耽溺に近づけるのではないかという気はして、つらつらとAmazonやら楽天やらを眺めてみても、どうにもわからない。と、いま思いついたのだけれども、おれには何年か一度ガンプラなど作りたくなる衝動があって、あの作業の没頭のようなものによって耽溺できるのではないか。かといって、それほど器用でもないし、自分で塗るフィギュア? のようなものはさすがに手が出ない。痛車や痛戦闘機のプラモという手もあるかもしれないが、しかしプラモはプラモで「今、プラモ」の衝動がないと面倒くさいだけだ。
 と、さらに考えてみれば、二次創作というものが世にはあって、プラモデルより自由に、自分の好きな方法で、自分の好きなアニメならアニメの世界に、より能動的に浸れるのやもしれん。かといって、具体的にどうするのだ。絵を描くのか? SSというのを書くのか? それとも? 
 ……いかにも面倒くさい。要するにやる気がないんでしょ。結局のところ疲れている。昼に書いた日記にあるように、どうにもなにか創作するようなものが湧いてこない。一方で、仕事はありがたいことにそれなりにあって、それなりにこなしていて、疲れている。それなりにこなせるように、調薬されているおくすり手帳がおれなのだ。
 α550のシャッターの調子が悪く、半押しが効きにくい。どこかのサービスステーションとちがって、横浜ソニーのそれはおれにとって好もしいさびれ方をしているのだが、そこにでも持ちこもうかと思ったくらいだ。が、ネットの簡易見積など見ると、修理費が2万円などと出てくる。だったら、想像を超えた革新性能で、一眼を変える。有効約2430万画素、AF追随する約12コマ/秒の高速連写を実現した、デジタル一眼カメラα77のボディでも買った方がいいんじゃないか。いや、それは高すぎる。かけがえのない瞬間に、こだわりの表現力を。高速AF&約10コマ/秒の高速連写。有効約2430万画素、デジタル一眼カメラα65でいい。それよりも、半押しの力のいれ具合を手前よりにすると半押しが働くというコツを覚えたので、買わないのが一番いい。新しいカメラを買ったところで、いったいなにを撮りたいのだ。おれが本当に撮りたいのは《84字削除》であって、《16字削除》だからだ。
 所沢の飛行機の博物館かなにかにアメリカから零戦の実機が来るというので、それに合わせて一日くらい休みを取ろうかと思っているが、いつ来るかわからないという。しかし、だいたいそれほど零戦に思い入れはないし、もっと思い込みのある人たちが、もっと素晴らしいカメラ(α77よりも!)と、いくらするのかわからないレンズなどを装着して大挙するのに混じりたいという思いがない。おれは人に混じるのがきらいなんだ、人と交わることの次くらいに。
 ひとりで高原を歩いていると、いろいろの飛行機のあたらしいものや朽ち果てたものがそこらにぽつんぽつんと姿をあらわす。触ってみても、乗り込んでみても、文句を言うものもいない。そのうち、動く飛行機を見つけて、たぶんそれはドルニエDo335のような少しかわったやつで、ブーンと飛んでいって帰らない。しかし、この項のタイトルには帰るとあるので、おれは帰る。今日は遅くなったので、お好み焼きを焼きはしない。ちょうど卵も切らしている。おれは慎重なので、肉を切らすことはあっても、まず卵を切らしたりはしないのだが。