「おれ、この年度末が終わったら歯科検診に行こうと思うんだ」。
今年の二月か三月頃のおれはそんなことを言っていたと思う。死亡フラグに違いない。とはいえ、日記ブログの定番ネタとして「歯科検診と歯石取り最高です!」みたいな記事を目にして、「おれも行ってみるか」という気になったのは確かである。何年か歯科には行っていない。歯にも痛みはないし歯茎にトラブルもない。しかし、おれの知らないところで密かに虫歯の萌芽が育ちつつあったらどうだ。最近の歯医者は無痛治療をしてくれるが、激しく侵攻されたあとではどうなったものかわからない。「あ、ちょっと虫歯になってますね。さっと削っときます」くらいで済むかもしれないではないか。
というわけで、おれはおれがかつて通った歯科に予約の電話を入れた。
「歯科検診と歯石取りをお願いしたいのですが」
「当院へは?」
「かつて治療を受けたことがあるんですが、診察券をなくしてしまって」
「では、生年月日とお名前を」
「昭和……」
「あら、平成二十年ですね、あはは、十年前になります」
「えー、そんなに経ちますか! そんなに前でしたか」
「すみません、もうカルテが残っていないので、初診ということになります。保険証をお持ちください」
……というわけで、おれにも驚きだったが、十年、十年もおれは歯医者に行っていなかった。ただ、おれのような一人インターネット老人会には十年前の記録がある。
この世の栄光の終わりとワールズエンド・スーパーノヴァ、あるいは「私が神様だったら、こんな世界は創らない」 - 関内関外日記(跡地)
「ァガッ!」(私の右下の奥歯の歯にはまだ神経があるんじゃないでしょうか)
「歯茎に近いから、ちょっと痛むかもしれませんねぇ」
キューン、キューン、キューン、キューン。
「ゥグッ」(いや、この痛みは神経があることによるものであると思うのですが。先生、なにとぞ慎重にお願いします)
(歯科助手に向かって)「ちょっと舌押さえて」
「……!」
うわ、そんなんあったな。まあともかく、このとき以来ということだ。
関内駅にほど近いT橋医院には十五分くらい早く着いた。はっきり言って場所なんて覚えていなかった。が、院内に入ってみれば、待合のソファにスリッパ殺菌マシーン。見覚えがある。来院者はおれ以外にいない。名前を告げ、保険証を出す。問診票を渡される。字を書くのは苦手だ。
しばらくすると、「どうぞ」と診察室へ。なにかこう、十年経ったな、という感じがする。歯科医は言う。
「前に来たのは29歳のときだ! ほかで治療を受けたりとか?」
「いえ、まったく。だから、ちょっと検査と、虫歯があれば治療をと思いまして」
そして口を開ける。歯科医は鏡のついた棒を口に突っ込んで、なぞの暗号のようなことを助手の女性に告げていく。一通り言い終えたと思ったら、「あ、上の○○が○○だな、逆もだ」などという。おそらく親知らずのことじゃねえのか?「親知らずを抜く」などという恐ろしい未来が待っているのか?
と、思ったら、「虫歯はないですね」だと。よかった。
そして言うのだ。
「右下の被せ物は私がやったんじゃないですかね? なんか私の癖があるもので」
「ええ、たぶんそうだと思いますよ」
……なんか職人みたいだな。いや、歯科医には職人的なところがある。
次に、レントゲンを撮ることになった。メガネを外し、レントゲン室に行く。重い何かを肩にかけられ、顎とおでこを固定する。口に小さな綿の棒を咥えさせられる。準備終了。歯科助手さん、部屋から出る。と、目の前に貼り紙があるのに気づく「ピアスとイヤリングを取ってください」と手書きの文字。口に棒を咥えたまま「あのー、すいあせーん!」。
「どうしましたか?」と助手の人。「ピアス取るように書いてあるんですが」とおれ。「では取ってください」はい。耳たぶのピアスを外す。と、「上の二つも外すのですか?」。そうだ、おれは軟骨に二つ穴を開けている。「上はべつにいいです」と歯科医の声。と、そのときおれは一番入れ直すのがやっかい(穴の角度が悪い)真ん中のを外したところだった。トホホ。で、なんか板がおれの周りを回って撮影終了。「次はクリーニングです」。
診療台に戻ってメガネを着けると、「外してください」。歯石取り職人にとってメガネは邪魔なのか。「着色がありますね。お時間大丈夫ですか」と訊ねられる。「大丈夫です」と答える。おそらく、コーヒーによる汚れだろう。そして、口の中に水分を吸い取るのか、空気を出しているのかわからないなにかを装着され、歯石取りが始まる。
カリカリ削るのかと思ったら、なにか感触が違う。そんなに固くないなにかが高速回転しているのか? それとも水流か? 手際よく作業は進む。べつに痛みを伴う作業ではない。が、歯医者苦手のおれは目を閉じて硬直している。そうだ、おれは歯医者が嫌で歯のケアを怠らずに十年過ごしてきたのだ。最後の方は、ちょっと金属の器具でカリカリやって、ゴムっぽい感触の歯間フロスをして終了。「歯磨きはきちんとできているようですが、少し力が強いかもしれません。あと、歯ブラシは柔らかいものを使うようにしてください」とのこと。
おお、虫歯なし、歯のケアに問題なし。最後に歯科医がチェックして、「色も取れましたね」。そして、レントゲン写真を見ながら、顎の骨に異常はない、被せ物の下も虫歯になっていない。親知らずは上の歯は両方出ているから虫歯に注意。下は右の方がちょこっと出ているからこれも注意。
「ここになにか挟まることないですか?」
「よくあるのでフロスなんかで取ります」
と、こんなところ。
「虫歯もないし、クリーニングも終わりですので、今回一回ですね。ただ、一年に一度は検診を受けてください」とのこと。そしておれは保険料適用で三千八百三十円を支払い、医院を出た。いきなり方向がわからない。市役所が見える。あっちか。
すごくスッキリした、というほどではないが、「歯医者に行きたくない」という一心でセルフケアしてきた方向性は間違っていなかった、ということに安堵した。そして自分でカリカリやってもうまく取れない歯の裏のコーヒー汚れを落としたおれは、会社に向かって歩いていったのであった。
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おれがメーンに使っているのがGUMである。「虫歯が怖いのに歯周病対策?」。その理由は以下を読まれたい。
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ついこないだから併用しはじめたのがこれで、研磨剤ではないなんとかいう成分がコーヒー汚れなどを浮かせてきれいにするという代物……らしいのだが、結果が出る前に歯医者できれいにしちゃった。しばらく使わなくていいか。
歯ブラシは、だいたいなんか歯医者か歯科技師の人がブログで推奨しがちなタフトを使用。形状はシンプル。ただ、ブラシが硬いというのではなく、なんかいい感じのコシがある。おれはMS(ミディアムソフト)からS(ソフト)に変えたが、硬め好きな人もとりあえずMSから始めてみたらどうかと思う。個人的にはSで十分だ。
フロスはこういうタイプのやつを使っている。シュルシュルと糸が長く出るやつは、どうやって使っていいかわからん。ちなみに、おれが使っているのは100円ショップで売ってるこういうタイプのやつ、である。
以上。