精神科医のざっくばらんなお薬話『精神科薬物治療を語ろう 精神科医からみた官能的評価』

 

精神科薬物治療を語ろう  精神科医からみた官能的評価

精神科薬物治療を語ろう 精神科医からみた官能的評価

 

精神科医というのは、抑うつ状態になったことがあるのか? そして、薬物を摂取したことがあるのか? そんな思いは精神障害者であるおれに、いくらかある疑問ではある。

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その疑問にひとかけら答えてくれたのがこの本であった。が、べつに精神科医が自分で服薬した体験を語り合ってるわけでもない(そういうエピソードもあるが)。精神科医たちが「わしはこんな症例にこんな投薬するやで」という話である。薬別に語っているところでは「わしはこの薬にはこんなイメージ持ってて、こういうときに処方するやで」と語っている感じである。

で、少々古い本なのだが、おれが現在服用していて、絶大なる信頼を置いているジプレキサ(オランザピン)の項目もあるし、読んでみたのである。ちなみに、イーライリリーの協賛があってこの本の元になったワークショップが行われた。

ちなみに、おれの精神疾患双極性障害である。

神田橋:「不安」とカルテに記載されているのは誤診の原因です。というのは、「不安」という言葉は、すごくたくさんの、多種多様な官能的世界をひっくるめてしまいます。「憂うつ」もそうですね。だから、これを、カルテに書くのは雑な診察だと思います。

 体験自体をもう少しこまかく書かないと、症状が絞られないんです。「焦り」「じっとしておれない」「一日中○○だ」とかね。

 双極性障害の人はとくに医者に合わせてくれますので、こちらが「不安なんですね」「不安がひどくなりましたか」と言うと、こちらの言語の「不安」に合わせて会話してくださるから、もうさっぱり官能的評価にならんの。

(p.42)

というわけで、出てきました「神田橋」、すなわち「神田橋條治」医師。おれが以前読んだ本でも名前が出てきた。

『双極II型障害という病 改訂版うつ病新時代』についてのメモ2 - 関内関外日記

神田橋條治双極性障害に対して「気分屋的に生きれば、気分は安定する」という標語をあみ出した。達人の真似はしない方がよいかもしれぬが、心にとめおきたい言葉である。

「達人」、これである。本書のAmazonのレビューを見てもらえばわかるが、この神田橋條治医師のやり方について、「星一つ」というものがある。それについておれは……妥当なようにも思える。なにせ、オーリングテストを用いる、さらには、薬そのものを袋に入れたサンプルを患者に見てもらい、それが合う合わないを患者の直観のようなもので見極めてもらうなんて話も出てくる。「脳の具合でわかるんでしょう」とかいう。このあたりは、「達人」の技というか、まじないというか、オカルトというか、なんというか、医学的なエビデンスとは程遠いように思える。

熊木:官能的評価についてお伺いしたいのですが、先ほどのフラッシュバックに四物湯合桂枝加芍薬湯が効くとか、エビリファイがいいのではないかということについてです。これは名人芸的なものです。このひらめきには因果というものが伴っていないのかもしれないのですが、もしよかったら、そのひらめきに先生が到られた過程を、凡人にもわかるように説明していただけないしょうか(笑)

p.62

が、おそらくは神田橋医師というのは名医なんだろうな、と思うところがある。それはやはり、なんというか、普通の医師には「達人の真似」はできないが、「達人」にはその領域がある。近代的だか現代的な医学というもの確立される前にも存在した、というか、そういう時代にこそ存在したのと同じ名医的な存在。これもまたエビデンスのない話になるが、一種のカリスマであって、たぶん、精神科においては、標準的な診察や投薬をする医師より、なんかよくなっちゃうみたいなことあるんだろうな、とか思うのだ。そうでなくては、Oリング使いの医師に患者が大量に集まることもないだろうし、精神科医のなかで(たぶん)高い位置にいることもできないだろう。このあたり、おれはまだまだようしらんので微妙なところだが、少なくともこの本を読んでの感想。

で、神田橋医師いわく、おれのジプレキサについてこんなこと。

神田橋:……やっぱりピーゼットシー4mg、寝る前に8mgくらいではないでしょうか。古いメジャートランキライザーはダーティドラッグって言いますよね。こういうがちゃがちゃした症例には、ダーティドラッグが効くんですわ。だから、老人のゼネストパチーを中心とした症状は、ファーストチョイスはほとんどコントミンですよね。一番ダーティだからね。

 どこに何が効いているのかわかりません。なんかいっぱいぐちゃぐちゃしてるんで、ダーティと言えばダーティだけど、別の言い方をすればMARTAですよねえ。なんでまたダーティって言わずに、MARTAっていう言葉になるのかなあ。よう思いつくわ。

 

熊木:では、ジプレキサもダーティですか。

 

神田橋:どうでしょうねえ。

 

水谷:ダーティの極みなんじゃないですか(笑)。

 

神田橋:そうですね。シャープな薬をなんとなく使っていれば、攻撃的な治療になる。その点では、ジプレキサはあまり攻撃的な感じはしないですねぇ。

 

熊木:ジプレキサはなんだかドグマチールに似ていると前から思っていたのですけど、それはどうでしょう。

 

神田橋:どうですかね。僕は時々、双極性障害に対して寝る前にジプレキサを使うんです。

 

MARTAとは「Multi-Acting Receptor Targeted Agent:多元受容体標的化抗精神病薬」(非定型抗精神病薬……とは違うのかな?)のことらしい。そして、そのダーティの極みは漢方薬であると。なんとなく、イメージはできる。で、がちゃがちゃしたものにはがちゃがちゃした薬、ということだ。ジプレキサ統合失調症にも双極性障害にも効くし、そういうものなのだろう。

なお、他の医師による一言コメント的なものに強迫性障害の人の衝動性の高さを抑えてくれる印象があるとか、「(病的)思考」「感覚」に働きかけるというより、「不安」「焦り」など「気分」をを鎮める薬、という印象。「気分安定薬」の方が適切な分類名か。などとあり、服用しているおれも「そんな感じかな」というところ。もちろん、血糖についての注意も多い。その点でおれは、ジプレキサを飲み続けるために血糖のコントロールにひどく注意している。

ほか、おれが飲んでいた薬というと、レスリントラゾドン)が取り上げられている。おれが一年間ほど服用した抗うつ剤だ。一年経過したあたりで、医師はおれにうつ病ではなく双極性障害だと診断を下した。が、おれはレスリンを愛していた。とにかく落ち着いて、眠りにつけた。やはり、鎮静作用が強いほぼ眠剤として使っている、などと評価されている。

あとはなんだ、おれが処方されていない双極性障害の薬について。

神田橋:リーマスが効く人が一番お中元とお歳暮をくださいます。

で、リーマスとくればデパケン

神田橋:小川先生の「なんとなくいやな感じの人に」というのはいいですよねえ。これはあまり悪い意味ではないと思うので、僕はこれはいいなと思います。

 気軽にものを言えない人という意味です。物言いに気をつけないと、ご機嫌を損ねるような人です。この人たちには気を遣うからくたびれるんです。そういう人にはだいたいデパケンが効きます。

うはは。おれがジプレキサ禁忌になったら、リーマスデパケン、どっちを処方されるのだろうか。あまり効かないセロクエルは勘弁だが、血中濃度を頻繁にはかるリーマスデパケンはもっと嫌だな。ちなみに、おれは十年近く世話になっている医者にお中元もお歳暮も贈ったこともないのだが、どうなんだろ。

と、そんな感じで、なんか達人を含めた医師たちが、わりとざっくばらんに薬について語っている本書、けっこう面白い。中井久夫医師や加藤忠史医師といった名前も出てくる。一種類でも自分が飲んでいる薬があれば、ぜひ読むべきだろう。そんなところ。

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