「カテキンって、ナンデスカ?」

日本人になじみの深い茶のカテキンは、1929年から辻村みちよらによって結晶状に単離されていった。茶カテキンの主要成分は、エピカテキン(epicatechin、EC) とそのヒドロキシ体のエピガロカテキン (epigallocatechin、EGC)、およびそれらの没食子酸エステルであるエピカテキンガラート (epicatechin gallate、没食子酸エピカテキン、ECg) とエピガロカテキンガラート(epigallocatechin gallate、没食子酸エピガロカテキン、EGCg)の4つである。

 100円ローソンのおれ、値引きシールの貼られた弁当とオニオンサラダを手に、一瞬ぼーっとした。ぼーっとしていたら話しかけられた。
 「すみません、チョットイイデスカ?」
 すこし舌っ足らずに聞こえる喋り方から、中国人だろうと思った。年齢は疲れ気味の20代〜40代。はい、なんの御用でしょう。
 女性はファブリーズのようななにかのスプレーをおれに見せ、「コレ、なんの香りですか?」と。
 そこにはこう記されていた。
カテキンの香り」
 「カテキンって、ナンデスカ?」。
 わからねえ。カテキンのことはぼんやりわかっても、「カテキンの香り」ってなんだよ。カテキンって……、香るのかよ?
 「うーんこの、これはお茶、お茶の香り、たぶん」
 おれはそうとしか言えなかった。すると女は、「ああ、お茶! ワカリマシタ。じゃあこっちはナンですか?」と、同種のスプレーをおれに見せた。そこには「ベビーソープの香り」と書いてあった。
 「ベビー……赤ちゃんデスカ?」
 赤ちゃんの香りはしないだろう。
 「そう、ベビーのソープ、赤ちゃん用のせっけんの香り、たぶん」とおれ。
 赤ちゃんのせっけん? そういうものがあるのだろうか。ありそうな気がする。カテキンそのものが売っているさまは目に浮かばないが、赤ちゃん用せっけんならドラッグ・ストアで売っていてもおかしくはないだろう。
 女は礼を言うと去っていった。
 果たして、「カテキンの香り」のスプレーからお茶の香りがするのだろうか。おれの知った話じゃなかった。カテキンも、ベビーもおれには縁のない話だ。縁のない話なんだ。