キャベツをえらぶ

 スーパーでキャベツが1玉98円。おれは価格のわりに量の少ない春キャベツを好まないので、ここのところのお好み焼きは玉ネギ頼りだったが、その価格ならわるくない。そう思って近づいてみると、中年の夫婦がキャベツ売り場の前から動かない。上下、赤茶色のジャージを着た夫人があれでもないこれでもないと、両手にキャベツを持っては戻しを繰り返している。時間も遅かったのでもうそんなに数は残っていないのに、執拗に繰り返している。と、買い物かごを持った旦那が「むいちゃえよ、むいて比べりゃいいんだよ」と言う。そうするとおばちゃんの方、外の葉をむき始める。売り場の手前には葉を捨てる箱があるのだからむくのはいいのだが……、品定めが終わった葉を捨てるもんじゃないのか。よくわからない。
 おれはいったん立ち去った。立ち去って、山芋と豚肉をカゴに入れた。そうしてキャベツ売り場に戻ると、さっきの夫婦の姿はなかった。そのかわりに、むかれた葉の散乱したなかに、つるんとむかれたキャベツが何玉か転がっていた。おれは一番手前のを手に取った。それは春キャベツじゃなくて、ずしりとした重さがあって、98円なら安い買い物に違いなかった。けれども、あの夫婦は、これよりもいいキャベツを選べたのだろうか。これよりも、いいキャベツを。