吉本隆明『よせやぃ。』を読む

よせやぃ。

よせやぃ。

 図書館でこっち見て「よせやぃ」とか言ってるから、「何をだよ?」とか思って借りて読んだ。本人曰く「脳の働きはグーグル・アースの人工衛星のように今のところフル回転していると考えている」という2007年ころの……随聞記みたいなものだ。はっきり言って、吉本隆明がその主要な著書で何を言ってるかようわからんし、この本だってようわからんのだけれども、気になったところをメモしておく。

……民族国家というのは僕は最後の国家だと思っています。最後の国家だけど、これはいまの状態ではなかなかなくならない。歴史が流れば、この形態の国家も別の形に移行していくはずなんですが、歴史が流れていかないんですよ。どうしてかというと、ハイテク産業と言ってもいいですけれども、第三次産業と言われているものが歴史性をどんどん壊す作用をしているからですね。

 曰く、戦争や紛争みたいなのも、思想性とか民族性とか宗教じゃなくて、先進と後進の国の諍いだ、みてえな。おれはそこんところなんとなくわかる。それだけでいいのかどうかわからんけど、中国なり北朝鮮なりの情況ちゅうのは、何十年前の日本なら日本だというような、そこんところがある。それ一本でいいのかどうかわからんし、なにを起点に先進国0年とするかみたいなのもわからんが。
 で、国家いうのがどうなるかというと、こうおっしゃる。いずれはなくなるかもしれねえが、当分続くぜ、と。資本主義と中間状態の社会主義と称するところも相当長く続くぜ、と。

 死は別物だ。人間の生涯の中には入らない問題で、生きている限りは生きていて、やがては死に至るんだけど、死は人間の個々の関与する事柄では全然ない。

 話は変わって、このあたりの死生観。これは親鸞がここまで突き詰めたんだぜって。それで、「日本の坊さんで誰がいいんだ」と聞かれたら「親鸞がいい」と。空海を「中世の福澤諭吉」ってたとえてるのもおもしれえかな。

親鸞は坊さんとか仏教とか、こんなもの引導を渡してしまったほうがいいという考え方ですから、僕はいちばん好きですね。

 ってさ。

 自分の出番が出てこないなら知らん振りして、だけど考えることは一所懸命考えて、行為ということについては受け身の方がいい。僕だったら、そう考えますね。僕は大勢より一人の方が強いというか、一人でも粘れるんだよというのが基本的にあります。政党政治とか社会指導者は組織が大きいほどいいし、融通がきくし、力も強いという発想をするんですが、僕は子どものころから引きこもり症だったからその反対なんですよ。「大勢になるほどだめだよ、弱くなるよ。本当は一人が一番強いんだ」という発想です。

 これはなんだ、だれだっけ、「人は弱いから群れるのではない、群れるから弱いのだ」って、そういうさ。ところで今、「人は弱いから蒸れるのではない」って最初に変換したんだけど、人間、蒸れたら弱いよなとか思った。弱いよね? んで、その受け身っつーか、備えておけ、考えておけ、いざてめえが文部大臣になったらどうすんのかみてえな、そういうところの構想力、人間力を持てよ、みてえな、いや、そこまで大袈裟じゃなくてもてめえの職分で……みてえなのかな。よくわかね。
 そんでまあ、一番面白かったのは石川啄木の歌を二つ対比させてのことで、「ここんとこおもしれえな」って思ったら、最後の一章の主題になってた。その一つってのがこれ。

秋の風
我等明治の青年の
危機をかなしむ
顔撫でて拭く

 それとこれ。

空家に入り
煙草のみたることありき
あはれただ一人
居たきばかりに

 これを比べて、前者には自意識ってもんがないんだぜっていうわけだ。歌の取り扱うスケールや時代性、思想性は前者に顕著だけど、後者のほうがいいんだって。なんでか理由なんか読み手にわかりゃしねえけど、どうしてこいつは空き家で一人煙草吸いたくなったんだ? って考えさせる余地がある。どうせろくな話じゃねえだろうけどもって。そんで、そんなしょうもないといえばしょうもねえことだけど、そんな体験は忘れようにも忘れられねえし、そこに持続性、永続性みてえなもんがあるんだよって。
 おれなんかの世代じゃ、もう、その芸術を思想性の軸で評価しようってのが馬鹿馬鹿しいのが前提だけども(……でも、公立小学校の授業だとどうだったかしらん。日教組先生の顔色うかがわなかったか?)、まあそういうのはおかしいぜって。
 それでまあ、なんかわかんねえけど、確かにそうだよな、みてえなところがあってさ。そんでやっぱり啄木もっと読もうかとか思ったりしてさ。
 あー、あとはなんだろうね、構想力とか人間力とか、あとは人間の人格なんてのは幼児期に決まっちゃってるんだとかいういつものとか、そういうのか。まあしかし、うちの親父が吉本信者だっただけあって、「よせやぃ、その話はずっと前に聞いてるよ」みてえなこともあったりと。それと、この本の時期あたりの話として、小泉純一郎郵政民営化について評価してるっつーか、あんだけ腹くくったやつに他のイシューで勝てるはずがねえみてえなのとか、堀江貴文への好感とかか。そんなとこ、おしまい。

>゜))彡>゜))彡>゜))彡

……ブックオフで買ってたか。

……この流れで借りたわけでもなく、なんだろうね今回のは。

……こっちはもう五年も前に読んだから、内容とか覚えてねえや。