夏はカラスについばまれるセミの静かな死

 風に吹かれる日に焼けた寿町の年寄りのシャツの裾。照り返しから目を背けて、かける宛のない電話番号。未完の帝国に降り注ぐ百万の不発弾。掘り起こされる記憶の予定地に偽りの骨を一本混ぜてやろう、二本混ぜてやろう。おれは逃げ帰って水分不足。寂しくなっても夏の星座、くゆらせるタバコの煙のつくる形は二度と思い出せない。空飛ぶ少女の夢を見た。あるものは永遠の上昇、あるものは永遠の落下。あらゆる都市は無人化が好ましい。ひとつひとつのビルの手すりの隙間からひとつひとつの眼窩の暗闇。コンビニエンス・ストアののぼりをはためかせる、肉置き細き少女は白いワンピース、ターンしてカット・バック、スイムしてフリップ・ターン。百万の無人都市に一千億の不発弾。演者警告。夕刻、青い柿の実が落下。素早く銃を抜くテキサス・レンジャー。おれはピンカートンに追われているんだ。おれは眠らない。24時間の意識、24時刊の生存信号新聞。トラルファマドール星に届いたとか届かないとか。見ろ、マジック・アワーの空を見たことのない複葉機が飛んで行く。駆け出すんだ夏の少年、君もおだやかに死につつある。