ニートのスティグマ

 上司の家の近くにどうも働いている様子のない独身男性が引っ越してきたという。上司本人はべつにどうとも思っていないようだが、娘さんがいることから奥さんが少し不気味に思っている。さらに、近所づきあいのある人たちが相当に警戒している、云々。
 若いころ巻き込まれるような形で刃傷沙汰でも起こして刑務所に入った男(高倉健、だろうか?)が、出所してまじめに町工場で働いている。そこで、社長が近所でおきた事件の話をする、あるいは刑務所帰りのだれかの話をする。そのとき、高倉健? の感じる後ろめたさ、冷や汗、おれはそんな気分になった。おれは若いころ巻き込まれるような形で刃傷沙汰でも起こして刑務所に入ったので正確なことはわからないが、そういう気持ちになった。おれは若いころ巻き込まれるような形で刃傷沙汰でも起こして刑務所に入ったことはないし、高倉健でもないが、どうも働いている様子がないどころか、はっきりと働いていない引きこもりのニートだったからだ。そんな話を振られたら、思わず目をそらして話題を変えたくもなる。
 ニート、社会的ひきこもり、あるいはその支援の話題など見ると、おれは完全にニート目線でそれを見る。とくに自立を支援するNPOの話など見ると、「はやくおれも支援を受けなくては! 職業訓練を受けなければ!」という気になる。焦りを感じる。社会復帰しなくては! ……おれは今、一応どうも働いている様子のあるサラリーマンのはずなのだけれども、わりと生々しい感情が湧いてくる。自明のことのように我が事と感じる。
 おれももう、ニートではなく「無職」に分類される年齢になりそうだが、いったいこの感情というものはいつまで引きずるものなのだろうか。おそらくはずっと、だろう。大勢の人間が通るような社会参加? を逃したまま、なんとなく生きてきてしまった。自分が社会人という自覚に欠ける。自覚に欠けててもいいよという妙な環境もそれに拍車をかける。さて、その環境がなくなったらどうなるでしょう。36歳以上の正社員経験者でも社会復帰を支援してくれる団体はあるのか? 参加資格は? 費用は? ……というか、人付き合いしたくない!
 というわけで、おれは思う、上司の家の近くに引っ越してきたどうも働いている様子のない独身男性がどのように生計を立てているのかと。べつに働いていないことを明言しているわけでもあるまいが。いずれにせよ、家賃を収めねばいけないはずだ。その収入は? ひょっとして、宝くじが当たったの? あるいは、宝くじが当たったの? それとも宝くじが当たったの? まったく、会社の静かな日が一週間でも続くと、おれはこんなことばかり考えてしまう。あと、元ニートはタバコを吸うと血管が収縮する。これ、豆知識な。