薬を飲むたびに不安と一緒に何かが消えていくような気がする。
薬を飲むとおれの不安感、焦燥感、憎悪が抑えられる。
一方で薬を飲んで呆けたおれには「何か」が残っていないような気もする。
「何か」がなんだかもわからない。
おれの人生は手遅れもいいところだ。
それでも「何か」があるというのか。
なのにおれは薬を飲むたびに「何か」が消えていくような気がする。
おれは「何か」を惜しいように思う。
しかしおれは「何か」が怖ろしいようにも思う。
おれは不安を愛さない。
おれはおれの動悸も発汗も愛さない。
だからおれは薬を飲む。
薬はそれに応えてくれる。
ただし「何か」を一緒に連れ去ってしまう。
「何か」に麻酔をかけて眠らせてしまう。
おれは双極性障害と診断されている。
「何か」は軽躁状態の四文字で片付けられるのかもしれない。
しかし、気取った言い方を許されるならば「希望」の二文字を当てたい。
おれは薬を飲むたびに「希望」が消えていくような気がする。
それでもおれは薬を飲む。
死ぬまで低調な人生。
墓碑に書くべき言葉も見当たらない。
そもそも入るべき墓すらない。
夏が来たのでゴキブリを一匹殺した。