西原理恵子月乃光司のおサケについてのまじめな話 アルコール依存症という病気
- 作者: 西原理恵子
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2010/07/01
- メディア: 単行本
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「ガンてこんなにかわいがられる病気なんだ。アルコール病棟のみんな、どーしてるかなあ」
鴨ちゃんがガンで入院している時につぶやいた、この一言が忘れられない。
アルコール依存症は「明るい病気」になれるのか。と、まず「明るい病気」という言葉について説明が必要かもしれない。「もしかして」の林公一先生がうつ病について書いていた表現だ。
うつ病は、明るい病気になった。
どういう意味か。症状のことではない。うつ病という病気が社会的に認知され、誰にも打ち明けられないような後ろめたい病気ではなくなりつつあるということだ。かつての暗く、孤独で、偏見を向けられるものから、正しい理解が広まりつつある。そういうことだ。
アルコール依存症という病気はどうであろうか。やはり、今現在でも「本人の弱い意志のせいだろう」などというところにあるように思える。「明るい病気」とはいえないように思える。上に引用した鴨志田穣の言葉はそれを端的に表しているようだ。ガンは「明るい病気」だ。あらためて言うが、ガンという病気が明るいものというわけじゃあない。ただ、人々に理解され、同情される「かわいがられる病気」ということだ。そしておそらく、アルコール依存症という病気は、今よりも「明るい病気」になる必要があるように思われる。
でも、エイズもうつ病も、病気の理解が広まって、その地位が上がったんだから、この病気(※引用者注:アルコール依存症)の身分も上げなければね。そうすることで、家族の中に憎しみが生まれないようにしてほしいというのが切なる願いです。
と、西原理恵子も言っている。アル中はアル中じゃない、アルコール依存症という病気。本人の性格とは関係ない(といえるのかどうかはわからないが)、ともかく病気。その理解。
アルコール依存症。これについては、中島らもの本などで知識があった。あったし、おれとしては理解しているつもりでもあった。とはいえ、おれはおれの父親が酒に溺れて会社経営をないがしろにして、社員や家族に迷惑をかけたということを許せる気にはなれない、というのも正直なところ。アルコール依存症だから、あるいは息子のおれから逆算して睡眠時無呼吸症候群だから、双極性障害っぽいから許せるかというと、そういうことにはならない。憎しみは消えない。そこがむずかしい。むずかしいが、その先に進むために、知識と対処が必要だ。そのための「まじめな話」が必要だ。わかる、わかるけど、わかりたくない。
とはいえ、こう言ってるおれは酒なしでは生きていけないなぁと思って、毎日飲酒を繰り返している人間だ。睡眠薬や抗精神病薬と一緒に酒を飲んでいる生活だ。酒がなければ、人生の不安から逃れられない。酒を飲まなければ、金がないという現実に直面する勇気がない。そして、おれは酒に強くなってしまった。昔は缶チューハイ350ml一本でも飲めば愉快になれたものが、今やテキーラやラムをチビチビ、ゴクゴク飲んで、それでいてなんとか不安心を消せる、というくらいになってしまった。仕事以外の時間は酔っているか、寝ているか、だ。
思えば、おれの父親ももとはあまり酒が飲めなかったが、鍛えて飲めるようになったと言っていた。父の場合は人と飲むことが多かったが、おれはただ一人、寒いアパートでアルコールを入れる。それで平常心を保てる。抗精神病薬を飲む、睡眠薬も飲む、もちろん酔った状態でだ。これがいいことであるとは毛頭思わない。思わないが、そうじゃなければこの苦しい生活を過ごすことができない。どうしたものだろうか。どうにもならないものだろう。今も、あまりおいしくない焼酎を飲みながらこの文章を書いている。あまりおいしくないものなど飲みたくはないが、そこにはアルコールが含まれている。おれは不安を打ち消す。焼酎が切れたら、ラムもあるし、テキーラもある。テキーラベースのコーヒーリキュールもあるし、アドボカートもある。ビールもある。おれは食費を削ってでもアルコールを絶やさない。
とはいえ、酔いつぶれるほど飲まない。記憶がなくなるほど飲まない。歯を磨くのを忘れて寝てしまうほど飲まない。ただ、チビチビと、不安を消すためだけに飲み続ける。アルコール依存症の自己判定にはひっかからない。予備軍だ。だが、この予備軍、なかなかの軍勢かもしれない。だからおれはこんな本を読んでみる。けれど、おれは変われない。ともかく、アルコール無しの人生は考えられないのだ。
ただ、他人にとっては、適量のアルコール摂取を維持し(かなり少ないんだ、これが)、あるいは酒を断ち、アルコール依存症についての知識とその対処を学び、健全に生きてほしいと思う。いや、べつに他人のことなんか知ったこっちゃねえや。好きに飲んで、好きに死のう。それでいい。