警察署に、出頭した。免許の、更新手続きに行ったのだ。運転免許の、更新に。
おれは日頃、自動車を運転しない。原付きすら運転しない。免許なんか、いらない。
けど、おれは日頃、どれだけ運転免許証のお世話になっているのか、それは数え切れない。クレジット・カードを作るだとか、仮想通貨の取引所の登録だとか。
それに、いざってときは、自動車を運転しなくちゃいけない場合もあるかもしれない。そんな時は、来ないにこしたことはないのだけれど。
というわけで、最寄りの警察署に出向いた。会社には午前休みだ、とLINEをしてある。写真は関内駅の自動証明写真機で撮った。つくばに行った日のことだ。スーツだし、ピアスを外しているし、ちょうど良いかと思ったのだ。なにが「ちょうど良い」のかわからないけれど。
「免許」の受付に行く。通知はがき、写真、免許証を出す。まずは後ろのマシーンに免許証を入れて、暗証番号を決めろという。そして、出てきた申請書に記入しろという。その通りにした。しかし、運転免許証の暗号番号というのはいつ使うのだろうか?
申請書には名前と生年月日と……住所は書かなかったかな。裏面に健康関連の申告がある。そいつを済ませて、今度は交通安全協会で三千円の収入証紙を買う。でも、領収書を見たら「一般社団法人 神奈川県警視会」となっている。よくわからない。よくわからないが、お上に逆らっては生きていけない。
そして、視力検査。これである。おれは十数年以上前に作ったメガネをかけて警察署に出向いた。それは、運転免許証の更新用に作った、度の強いメガネである。日頃、パソコンのモニターを見て労働している目には、それほど強くないほうがいいとどこぞのメガネ屋が言ってきて以来、おれはそれほど強くないメガネで暮らしてきた。それで不自由はなかった。が、免許証更新の視力検査というと話は別だ。大昔のメガネを引っ張り出す必要があった。……正直、判断は間違っていなかった。「ふだんのメガネでもいけそうだが、このメガネでもギリギリか?」という相反する感想を抱いた。ひょっとすると、どっかの安いメガネ屋で、キツキツの度数のメガネを作る必要があるかもしれない。
視力検査をパスしたあとは、講習というやつである。部屋……ではなく、パーテーションと戸棚で仕切られた一角に出向くと、交通安全協会の人らしき女性が「ちょうど今終わったところなんですよ」という。講習生はおれ一人。「十五分ビデオを見ていただきます。そのあとお話になります」と女性。「はい」とおれ。昔は延々とリピート再生されているビデオを途中からでも見て、「あ、これは見たな」というところで退出すればよかったものだが、さすがにそれではいい加減過ぎるということになったのだろう。
十五分、ビデオを見る。なにやら、どこぞの大学の教授が出てきて、タブレット端末で事故回避のアプリを開発したので、それに則って話が進行したりする。時代は変わる。十五分経つ。先程の女性が出てくる。
「ふだん、運転はなさりますか?」と問うので、「いや、しないです」と答える。「そうなんですよね、さっきも話していたんですけど、最近は若い人は運転しないって」。おれ、若いのか? もう四十だぞ。でも、運転しないのは確かだ。でも、自転車には乗る。「正直、この付近はあまり交通事故が少ないんですよね」とぶっちゃける女性。話は自転車のことにシフトして、「どうも自転車に乗ると車両という意識がなくなるみたいで」とか言うので、「わかります。逆走多いですものね」などと相槌を打つ。その後、渡された冊子の、最近法改正された部分などの説明を受け、講習は終わる。女性講師のなにかあまりに手慣れた雰囲気に「友近が芸のレパートリーに加えそうだな」などと思う。
再度、受付へ。その次点で、手元になにも書類はない。名前を告げよというので、名前を告げる。引換証をもらう。一ヶ月以上先だ。郵送には千円かかるというので、もちろん「受け取りに来ます」。
これにて、ひとまず手続きは終了。おれは寒風のなか、小径車で会社に向かって本牧通りに出たのであった。……と書いてはみたが、たしか晴れていて、少し暖かいくらいだったので、耳あても、手袋も無しで自転車を漕いだ、たしかそうだったように思う。