朝、起きて、まだ、行こうか、行くまいか、迷っていた。
どこへ? 横須賀の米海軍基地へ。フレンドシップデー。オスプレイが、展示されるという。神奈川新聞が、批判的に、情報を伝えてくれた。
オスプレイ。まだ試作段階だったかなんだったか、おれは「可変型!」ということでテンションがあがった。おれはガブスレイが好きで、オスプレイもそういうもののように思っていた。それがある種の象徴となり、単なる輸送機以上のものになってしまうとは、想像もしていなかった。
そのオスプレイ。とりあえず、この目で見てみる必要はあるんじゃないのか。必要はなくとも、とりあえず、この目で。この目でみたところでどうなるわけでもないが、ともかくこの目で見てみるべきだ、そう思った。
そう思ったが、フレンドシップデーの混雑をおれは知っている。おれがでかいコーラの容器を持っていたら、でかい黒人女性から「おまえはどこでそれを手に入れたのだ?」と質問されたことは今でもよく覚えている。行こうか、行くまいか。
行った。
いったん横浜に出て、京急の下りに乗り換え、横須賀中央、そこから徒歩15分だったかどうだか。
どんつきの三笠公園へ(三笠公園の奥に米軍基地への入口がある)。
とりあえず、東郷元帥チーッス。今日はアメリカを見てやりますよ。丁字戦法っすよ。
と、入口待機列(身分証明書と金属探知機による検査)に並んでいたら、はるか向こうにそれらしきものが見えるじゃあないか。手前の白いのは、だれかの日傘だ。ともかく、この距離でこの大きさ、ずいぶんでかいんじゃないかと思う。
まあ、ともかくおれは運転免許証を出し、金属探知をくぐり抜け(いや、なんか悪いものを持っていたわけではないけれど)、米軍基地内に入った。
それでも、「危険 軍用犬」。
なんか水面を飛んでる人もいる。恐るべし、米軍。
さあ、オスプレイ、と思ったが、その前に艦船見学に行こうじゃないかと思った。展示はずっとあるだろうが、艦船の方は締切がある。そう思って、おれは行列に並んだ。
ブルーリッジとゆうぎり。おれは携帯端末でブルーリッジのことを調べた。第7艦隊旗艦だ。
横須賀を母港にする旗艦、見てみたいじゃあないですか。
ウッソー。
なんというか、行列がすごい。日差しもすごい。こんなに行列するものだっけ? でも、もう並んでからけっこう経つし、今さら離脱するのもなんだなあ、と思う。じわり、じわりと進む列に、一人さみしく連なる。
たまにポリスだの救急車だのがサイレンを鳴らして通り過ぎる。日本の救急車も見た。熱中症だろうか。
照りつける太陽。日焼けしやすいおれ。朝からなにも食べておらず、ちびりちびりと駅で買った麦茶を飲むおれ。そこへ通りがかったのが、ブルーリッジの乗組員らしき海兵だ。「ツメタイミズ、ヒャクエン!」。おれは大柄な黒人の兵士を呼び止めて、冷たい水を手に入れた。とはいえ、この時点でおれの麦茶はまだ80%以上残っていたことを述べておきたい。おれはかつて自転車のロングライドを趣味にしていたことから、水分補給については慎重なのである。
とはいえ、おれの先方にいた中国人らしき一団は、1リットルのペットボトルを携帯していたので、かなり場馴れしており、賢明であるように思えた。
LCC-19。
これもアメリカの船。
でも、LCC-19。行列は遅々として進まない。いや、ちょっとずつ進むのだが、ほんとうにちょっとずつなのだ。その脇を、ブルーリッジの乗組員とその家族らしき人たちが、キャップを「ツーサウザンド、エン! ワナ、キャップ?」と言いながら通り過ぎ、「ツメタイミズ、ヒャクエン!」と言いながら通り過ぎる。おれは自前の帽子をかぶっていたが、それがなければワナ・キャップだったろう。
満艦飾、かね?
第7艦隊旗艦、と書いてあるのだと思う。
それにしても、太陽が。
こういう小物、好き。
なんか、こういう装置とかも、好き。
これは多分、略章の艦艇版じゃあないかと思う。多分。
入口は見えども、そこで止まる。というか、入口で渋滞が起こっている。まあ、大量の人間が一斉に入れるような軍用艦というのは危ないので。
ようやく船に渡る……名詞を知らないが、そこにさしかかって、下を見ればクラゲが発生していた。
BLUE RIDGE。
「BLUE RIDGE」と名付けられた艦艇は、これが三番目であるというようなこと。それ以前の「BLUE RIDGE」がどのような作戦に参加したかというようなこと。
しかしまあ、この「BLUE RIDGE」も1970年就役の艦である。ところどころ、年季を感じさせる。あと、水漏れというか、そういうところもあった。
こんなんな。
艦長と、なんか偉い人な。
なんか作戦とか、演習に参加した記録っぽいものよな。
なんかヘルメットよな。
軍用艦いうたらロープよな(古い発想かもしれん)。
ふー。
なんか、装置。
この艦は、このあたりが肝なんだろう。
なんかメーター。現役なのかな。
たぶん、この艦に求められているのは火力ではなくて。
のっぺりしたあれで、レーダーがなに、というわけだ。
ブリッジのこれなども、現役で動いているものだろうか。
もっと、コンピュータ制御になっているのだろうか。
でも、なんか古めかしくて。
こんなん、現役で使うのかしらん。
わからん。そして、その場にいた女性兵士に「これって現役で使ってるんですか?」と聞く英語力もなく。
まあ、いいさ。
甲板に出てみる。
レスキュー・ストラップ。
なんか、かわいい船たち。
ファランクス的な。
大漁旗のような。まあ、お祭りだし。
これ、弾倉というのか、ともかく弾薬がすごい速さで下から上がってくるのだろう。
なにかこう、古めかしいメカ類。
一方で、なにかしら最新の技術。
そのあたりが、第7艦隊の旗艦なのよな。
ちなみに、続けてわが帝国海軍の「ゆうぎり」が見られるが、おれはおれにしてはたくさん護衛艦を見てきたし、本来の目的はオスプレイなのでパスすることにした。しかし、おれが望遠で狙っているところを、望遠で打ち返してきてるやつがいるな。
これが「BLUE RIDGE」のシンボルマーク? 人工衛星らしきものが古いSFのようだ。
そしておれは揚陸指揮艦を満喫して、出口を目指した。しかし、なんだね、階段急だし、狭いね。身体の小さな俺ですらそう思うのだから、ものすごくでかく見える乗組員(かどうかはわからないが)なんかは、この階段、どんな速さで、どう降りるのかね、とか思った。いや、だって、本当に狭いぜ。最新式の艦艇は広いのかな?
さらばブルーリッジ。多少なりとも縁ができてしまったので、撃沈されないことを祈る。
えーと、これは、そうだ、迷彩服だ。かなり近づくまで存在を認識できなくて、「うおっ」と思ったのだ。馬鹿にならないね、迷彩いうもんは、本当に。現代の戦場でどれだけ有効かわからんけど。
で、すごく足の長いおっさんとかいたり、ピザやネイビーバーガーの出店に行列ができていたり、そんなかつて見たことのあるような風景。夜には花火大会があるので、大きなピザ確保といったところだろうけど、冷めちまうぜ。
まあいい、おれはオスプレイのある方に向かって歩いた。三笠から見た感覚とも一致している。
しかし、ここだろうという場所に、ノー・オスプレイ! ノー! ノー!
野球(ソフトボール?)グラウンドの向かい、Aviation Displayってあるやん。
でも、よく見たら10 a.m.-2p.m.ってあるやん。ああ、展示だから、ずっとあると思っていたのが間違いだった。オスプレイ目的で暑い中やってきたのに、なにしてんだおれ。最初にきちんとこの案内見ておけよ。そうしたら、オスプレイに間に合った。しかし、オスプレイどこに行ったんだろうな? 飛んで行ったのかな? ブルーリッジの行列にいて、そんなん気づかなかったぜ。とはいえ、あの行列に二時間半以上並んだのが間違いだったとは。しかしなんだね、ブルーリッジは3時まで行列に加われたのだから、先にオスプレイ行っておくべきだった。ブルーリッジはその後でもよかった。ほんと、なにしてんだ、おれ。
猿島もむなしい。
そんな、フレンドシップ・デイ。
帰りは、JR横須賀駅まで歩いた。ヴェルニー公園をひさびさに見た。自衛隊もなにかイベントをやっているようだった。おれは両腕を日焼け止めでかなり保護したものの、汗がしたたる顔面はひどく赤くなった。
この日、朝から摂取したのは抗不安剤と水、駅で買った麦茶、米兵から買った水、横須賀駅までの道中で自販機から買ったポカリスエット。おれはわりと謎のスタミナがある方らしい。かといって、海兵にはなれない。そんなところだ。
以上。
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