セクシー・ヴィーガンの日

飼い犬に猥褻をはたらき逮捕─男の名は「セクシー・ヴィーガン(本名)」 | 「大統領候補」で「歌手」で「虫の友」 | クーリエ・ジャポン

セクシー・ヴィーガンは2016年にシカゴからウェスト・ハリウッドへ移り住んだ。改名前の名前である「ヘンゼル・デバルトロ3世」から現在の名前にしたのはその頃だという。

 

セクシー・ヴィーガンは2016年にシカゴからウェスト・ハリウッドへ移り住んだ。改名前の名前である「ヘンゼル・デバルトロ3世」から現在の名前にしたのはその頃だという。

セクシー・ヴィーガンは憂いていた。肉食が地球環境に与える損害について。サンタアニタパークで多くの競走馬が死んでいくことについて。セクシー・ヴィーガンの悩みは尽きることがなかった。

なぜ、この世はこのような地獄に成り果てててしまったのか。それとも、この世が生み出された瞬間から、これはこのようであったのか。ジーザスとかいうやつに聞いたみたいと思ったが、どこに行けば聞けるのか知らなかった。セクシー・ヴィーガンには知らないことが多すぎた。

多くの憂いと疑問を背負い、セクシー・ヴィーガンはいつものバーガー・ショップに入った。

「ダイエット・コークとアンガス・ビーフ・ステーキ・バーガーのアンガス・ビーフ・ステーキ抜き」

バーガー・ショップの店主は、パンにレタスとアボカドをはさみ始めた。

セクシー・ヴィーガンはいつも疑問を思い浮かべた。

「アンガスってのはどこにあるんだ? カンザス? テキサス? それともニュー・メキシコ?」

けれど、セクシー・ヴィーガンは、強面の店主にそう尋ねることはできなかった。セクシー・ヴィーガンはあくまでセクシーなポーズで、セクシーにアンガス・ビーフ・ステーキ抜きのアンガス・ビーフ・ステーキ・バーガーを待った。おれがセクシーであることで、ヴィーガンの思想が広まればそれでいい。おれはイコンだ。そう思った。

窓の外では何台もの車がストリートを通り過ぎた。排気ガスを撒き散らせながら、車が通り過ぎた。セクシー・ヴィーガンは深い憂いのなかにある。

バーガー・ショップの隅っこに設置されたテレビでは、一人の少女が大国の首脳者に向かって、わたしたちに環境変動の負を負わせるな、と訴えていた。セクシー・ヴィーガンはまた、悲しくなった。この世はどうしてこんなに悲しいものになってしまったのか、まったく理解できなかった。あの少女も救われるべきだし、権力者たちも救われるべきだった。どこにも救いの鈴の音は響かなかった。

セクシー・ヴィーガンは手持ちのバック・ミラーでキッチンの様子を見た。パンの間にレタスとアボカド、そしてグレイヴィーなソースが挟まれていた。グレイヴィー・ソースがヴィーガンにとってよいものかどうか、セクシー・ヴィーガンにはわからなかった。けれど、セクシー・ヴィーガンは強面の店主に尋ねることはできないままだった。

しばらくすると、やる気のないウェイトレスが、セクシー・ヴィーガンのもとにダイエット・コークとアンガス・ビーフ・ステーキ抜きのアンガス・ビーフ・ステーキ・バーガーを持ってきた。セクシー・ヴィーガンは、セクシーなパンツからチップを取り出し、ウェイトレスに手渡した。ウェイトレスは、ふん、と言って受け取った。

この瞬間にも、熱帯雨林は切り倒され、アイスランドだか、グリーンランドの氷は溶け続けている。なのに、みんな知らん顔でクーリエなんか読んでいやがる。おれには、まったく意味がわからない。地球上のいたるところで、水位が上がって砂浜もなくなる。いくつもの都市が水没する。おれたちは困る。それなのに、肉を食って笑っている。

、行動しなきゃいけないんだ。この、、だ。

そう思いながら、セクシー・ヴィーガンはアンガス・ビーフ・ステーキ抜きのアンガス・ビーフ・ステーキ・バーガーにかぶりついた。グレイヴィー・ソースの味がした。ダイエット・コークをストローで吸い込んだ。砂糖は良くないんだ。だれかがそう言っていた。おれはもうヘンゼルなんて名前じゃないんだ。そう思った。

窓の外が急に暗くなったのに気づいた。雨が、降ってきた。かばんを傘にして走るスーツ姿の男が見えた。ひどく滑稽なように思えた。みな、おれのような格好をすれば、雨に濡れることなんて心配しなくていいのに。物事を考えない連中だ。その雨になにが含まれているのか、知りもしないのだ。そして、家に帰ったらUber Eatsで油まみれのピッツァを頼んだりする。おまえがなにを食っているのか、おれは知っているぞ。セクシーはそう思った。そう思って、雨が止むのを待ちながら、ダイエット・コークをちびちびと飲んだ。

雨は、いつまでもやまなかった。