いちファンとして言う ブラストワンピースかペルシアンナイトには種牡馬になってほしかった

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先日、ペルシアンナイトの引退と乗馬への転向の報道があった。今度はブラストワンピースだ。共通点はなにか。ハービンジャー産駒の牡馬G1馬だったということだ。

 

おれはそれほどハービンジャーに思い入れがあるわけではない。ないけれど、「二頭ともかよ」となってちょっと驚いた。一頭だったらそれほどでもなかったかもしれない。ペルシアンナイトが種牡馬になれないと知ったときも、「ブラストワンピースがいるしな」くらいに思っていた。順番が逆でも同じようなものだったろう。まあ、ブラストワンピースとペルシアンナイトにそれほど思い入れがあるわけでもない、というのも正直なところ。

 

で、ハービンジャーキングジョージを11馬身差のレコードタイムで勝った馬だ。Wikipediaによると、仕上がりが遅かったことと、距離適性などから、わりとあっさりと日本に来たようなことが書いてある。

 

日本でのハービンジャー。上記二頭のほか、モズカッチャン、ディアドラ、ノームコアなどの牝馬G1馬も出している。トップオブトップの種牡馬とは言えないものの、それなりの成績を残している。間違っても失敗種牡馬などではない。それに、現在日本の主流であるサンデーサイレンス系でもキングマンボ系でもない。ダートは走らないけれど、無視できない種牡馬だ。小倉の芝2600mとかではとくに。

 

だから、ブラストワンピースかペルシアンナイトのどちらか一頭くらい、種牡馬になってもほしかったな、と思うのである。

 

……などと書くと、ものすごく馬鹿にされ、痛烈な批判を浴びることになる。「プロが判断して種牡馬適性なしと言っているのに、素人になにがわかるんだ」。「競走馬も種牡馬経済動物だ。ビジネスにならないと判断されたのだからそれまでだ」。「そんなに言うならお前が金を出してブラストワンピースなりペルシアンナイトなりを買い取って種牡馬にしろ」……。

 

そんなんわかっている。わかっているが、「労働者が経営者目線を持つ必要はない」というのと同じ意味で、べつに「競馬ファンが馬産地の目線を持つ必要はない」と言いたい。

 

馬産地にとって、種牡馬ビジネスにとって、競馬はロマンでもなんでもなく現実的な商売だ。とはいえ、馬券を買っていようがいまいが、99%のファンは娯楽として競馬を楽しんでいるのであり、娯楽の背後にそれを成立させている現実、ビジネスがあることは承知のうえで、やはり娯楽として消費していいはずだ。

 

それに、リアルな日本の競馬ビジネスというものも、その原資は石油王のポケットマネーなどではなく、大なり小なりで結果的に世界で類がないほどの馬券売上によって成り立っている。馬券を買っているのは99%以上娯楽でやっているファンだ(たぶんほんのわずかに馬券で生計を立てているやつも存在はすると思う)。

 

そのファンが「競馬おもしろくねえな」と競馬をやらなくなったら、競売ビジネスも成り立たなくなる。そういう相互関係はある。

 

で、成功するかどうかもわかならいし、国民的人気があったわけでもないG1馬が乗馬になること、ハービンジャーの後継種牡馬になれないことが、ファンの競馬離れにつながるの? という話にもなる。

 

そうなると、はっきり言って「それほどでもかな」と思う。とはいえ、香港などと違い、馬産地もある日本競馬の楽しみの一つは、現役時代を知っている馬の産駒が競馬場に「帰ってくる」ことだ。息長く走り続けたG1馬、他でもない有馬記念を勝った馬。そんな馬の子が「帰ってくる」のは楽しみの一つだろう。たとえ種付け数の少ないマイナー種牡馬として、めったに馬柱に名前が見られなくとも、それを見つけたときの喜びというものもあるだろう。万が一、重賞を勝つような馬が出てきたらさらに楽しい。

 

少なくとも、いちファンのおれはそう思うので、いちファンの分だけ、こうやって声を出しておく。

 

もちろん、馬のウェルフェアみたいなものを考えたとき、ちゃんとした行き先が決まっている「乗馬」は悪くない。下手に失敗種牡馬になって用途変更、行方不明になるよりましだ(もっとも、中央G1馬級なら、今この時代においては行方不明の可能性は低いと思うが)。そういう考え方もある。

 

けれど、やっぱり少しでも血が残る可能性はあってほしかったよな、と思う。それは、なにもファンだけのお気持ちではない。

池添 引退が発表されたブラストワンピースへの思い吐露「騎手としての責任を感じています」― スポニチ Sponichi Annex ギャンブル

池添は「ブラストワンピースの引退が発表されました。新馬戦からコンビを組んで一緒に有馬記念を取ることができました」と思い出からつづり始めた。「でも考える事はダービー、菊花賞大阪杯と自分が上手く乗れば勝ててたんじゃないかと…そうすれば種牡馬としての道があったのにと…申し訳ない気持ちでいっぱいです。有馬記念だけでも種牡馬になれると思っていました」と種牡馬入り出来なかった愛馬への思いを吐露。

現役の競馬関係者、それもブラストワンピースに乗っていた騎手である池添謙一がこう言うのである。やはり、活躍馬には種牡馬になってほしい。そう思うのは、それほど不自然ではないはずだ。

 

競馬はロマンだけでは成り立たないが、ロマンなしでも成り立たない。大手馬主グループの競走馬の「使い分け」なども、「関係者目線」でいえば「より多くの賞金を手に入れるための合理的な判断だ」ということになる。だが、べつに豆馬券に一喜一憂しているファンに、そんな目線なくたっていいだろう。強い馬と強い馬がガチンコでぶつかるレースを見たい。その馬券を買いたい。それもまた自然だ。

 

というわけで、自然な気持ちの発露として、あらためてブラストワンピースかペルシアンナイトにはハービンジャーの血をサイアーラインとして一代でも残してほしかったとあらためて言う。今どき「日本は名馬の墓場」でもないだろうが、それが欧州への恩返しというか、義理立てみたいなところもあるかもしれない。

 

とはいえ、ハービンジャー産駒がこの二頭で終わったわけではない。まだ見ぬ産駒が文句を言わせないくらい活躍してくれたっていい。ニシノデイジーが復活してくれてもいい(この馬はこの馬でオーナーがオーナーだから種牡馬になれる可能性がないわけではないのだけれど)。

 

いずれにせよ、ブラストワンピースもペルシアンナイトもお疲れさん。そして競馬は続いていく……。