雨中走行実験顛末

雨の日にわざわざ自転車で散歩する人はいないだろうが、困るのは通勤だ。朝から降っていれば、すっぱりとあきらめて別の交通手段で行くのが正解。
『いますぐ使えるクロスバイク図解マニュアル』疋田智

今朝

 地震で目がさめた。「またか」と思った。連日だ。しかし、連日というのもおかしな話だ。俺は怖くなった。「このままでは死ねない」とシャワーを浴びた。やっぱり、死ぬときは、あるいは大地震で風呂に入れなくなっても、ちょっとでも清潔な時間が長い方がいいじゃない。
 そして、「このボロアパートでさらに地震が来たら危ないな」と思った。ハイクの記録によれば午前五時一九分。ようし、それなら、朝早いけど外に出て、マクドナルドで朝飯でも食おう、と。
 幸いにも、今はかなり小降りだし、この隙に折りたたみ自転車を会社に持ってきてしまおう、と。……そうだ、俺はつねづね雨中での自転車運転経験の無さが気がかりだったが、これを機会に、少し乗ってみよう、と。どのくらい滑るのか、ブレーキが利かないのか……。傘さし運転というのは最初から頭にない。あれは規則云々以前に、俺には無理そうだから。
 それで、まだ寒いころに買ったウィンドブレーカーを着込み、ユニクロカーゴパンツの裾をまくり上げ、俺のすばらしいドイタートランスアルパインのレインカバーをはじめて展開し、さあ出発!

雨中地獄

 で、えーと、結論から言うと、無理。だんだん本降りになってきたんだけど、滑る滑らない以前の問題。雨の中で自転車、ましてやクロスバイク云々考えるやつはメンヘル、いや、メンヘル以前。盛大に酷いことになって、全身の骨という骨が砕けて、内臓とか露出して死ぬと思う。
 ……というのは少し大げさにしても、ともかく滑るだのブレーキの効きだのじゃねえの。まず、ともかく、前が見えない。これはもう、メガネ男子の構造的欠陥ともいえるが、視界が確保しにくい。さらには、目に入った滴を拭き取るのも困難(これは汗においても直面する問題)。幸いにも人が少なかったから、気は急ぎつつ、ゆっくりと、いや、ゆっくりしか行けないのだが、ともかく、たかだか一五分くらい漕ぐだけで精いっぱい。
 というわけで、いやはや、タイヤの滑りだのなんだの、実に観念的というか、机上の空論であると言わざるを得ない。人間、雨中のことを想像するときは、せめてメガネかけて、服を着たままシャワーを正面から浴びて考えなきゃだめ。日本海軍の軍令部もそういう意識が必要だったんだと思う。

一時、343空に対し連合艦隊司令部から特攻攻撃の要請があったが、志賀飛行長が拒否し続けた為最後まで行われる事はなかった。戦後、志賀が残した証言によれば、度重なる特攻拒否に業を煮やした源田が隊舎を訪れ、志賀に特攻を受け入れさせようと圧力をかけたという。志賀が「わかりました。それでは特攻編成の最初の一番機には、私がお供をしますから、あなた自身が出撃してください」と言うと源田は顔面蒼白になり以後、二度と特攻攻撃の話を持ち出すことはなかったという。

第三四三海軍航空隊 - Wikipedia

被害報告

 まず、上半身からいえば「ウィンドブレーカーは風を防ぐためのもので、レインコートではない」ということ。内に着ていたポロシャツまでびしょびしょ。そして、下半身。なんとなく徒歩の感覚から上半身ばかりに意識が行ったが、下半身もレインパンツ(?)が必要ということ。完全にびしょびしょ。さらには。進行方向的にパンツ(下着)の前面がびしょびしょ。失禁みたい。コンビニでトランクス買った。ポケットに入れてた革の財布も濡れて最悪。千円札に染み出す色。ただ、ドイターのバックパックはさすがの防水性能を見せた。これは収穫。ただ、真っ黄色のカバーはまるで小学一年生のそれであって、歩くときなどはなかなか躊躇する見た目であるようには思う。ただでさえ雨には強いと思うんだけれども。


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結論

 まあ、言うまでもなく、俺が自転車に乗ることに限り(実際、今朝も手練れのママチャリ乗りたちが、ジオンの試作形モビルアーマーみたいな大型カバーや、あるいは傘さしで巧みに走っていたわ)、冒頭に掲げた引用の通りだということ。もっとも、疋田氏に言われるまでもなく、折りたたみ自転車を買ったときからの方針であって、なんら困ることはない。自転車だけ、というのは面白くない。歩くこともまた、日々の楽しみだ。うん。
 あとはまあ、クロスバイクでどっか行こうという休日の、天候判断だな。もう、「ちょっと雨に降られるかも?」みたいな感じで出ることはやめよう。やめようというか、無理。せいぜいあるとすれば、会社なりアパートなりに押して歩いて一五分くらいの範囲をグルグル回ることくらいか。急な雨が降ったら、一も二もなく、とっとと降りて、うーん、どうする? 輪行袋でも持って行く? とりあえずは雨宿り、そして、雨が上がらなければしかるべき場所に駐めて単身帰宅、みてえな、そういう方向しかないだろう。まあともかく、「雨に触れたら死ぬ」くらいの気持ちで行きたい。雨は気持ち悪い、楽しくない。自転車で苦行し、さらには万一死ぬことになっても、雨に降られながらというのは気持ちよくない。それを肝に銘じた。実験の成果はあったといえる。もう、今日は疲れてしまって、眠くてしょうがないが。