リスペクト、リアルなアーティスト〜第84回国展に行く〜

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「あー、チミチミ、取引先の〇〇の社長がね、趣味が絵でね、国展ってのに作品を出すらしいんだな。わしの代わりに、ちょっとどんな絵か見てきておいてくれんかね? はい、これ、チケット」
 って、まるで昭和のサラリーマン漫画みたいな理由で、しょうがないサラリーマンの悲哀、黄金週間最後の一日、六本木へゴー。
 とはいえ俺も一度は見てみたかったこの手の展覧会、てんで内容は予想つかず、か、つくかわからんけど、決して自分で金出して行く気になれない、よい機会、べつに期待もしてねえけど。
 来てみた久々美術館、ここは国立新美術館、はじめて来たときの感動も忘れたこの外観。ルーシー・リーにもルーシー・リューにも興味はないぜ、行き先はただ一つ俺たちの国展。

 ディス・イズ・国展、ディス・イズ・国のアートど真ん中、カモン、日展院展、二科展、束になろうがよう勝てん、積み重ねられた歴史、突き破る景色、連綿と続く破壊と再生の連盟、でかいカンバスからおまえらにパスする美術の魂、秘術なんか必要ないぜ、ひとりここに命かける、絵筆で描く己の技術と未熟塗り込めてドント・ストップ。

 まずびっくりしたのは作品の数、つか、これはかなりの大展覧会、絵画のサイズもみんなビッグ。俺のワンルームの生活空間超越したそのでかさ、いったいどんなスペース持ってるやつがこのスペース描いてんだ?
 つまり内容は穏当な大人の絵かもしれねえけど、このサイズの白いカンバス買った時点でプリントアウト、家族から白い目で言われるゴーアウト。ただ、絵のテーマのどこか知らねえ海外の保養地、よく考えてみれば画材もなにも財布軽くするに十分な諸経費、だからって金持ちの娯楽だとはいわねえけど、この山手のやがての乞食候補、六本木の空気にちょっと不調法。
 「ところでなんか象の絵が多いですね、象流行ってんの? それとも、象描くと入選すんぞって噂になってたりするんすかね?」
 「美大のころの先生が、〈自分は猫だ〉って思ってる人だったから、みんな猫の絵を出したの。成績がよくなるから」
 「じゃあ、審査員長が、象っぽいとかなると、こうなんの? 鼻長いの? あと、英字新聞とかコラージュして埋め込むのもブームですね。これもなんかあんの?」

 まあさ許してくれ俺は美術の素人、足は痛いし少し早足、ついに目的の社長の絵をゲットしたぜ。おう、あの社長、こんな絵を描くのかって、どの社長かまったく知らないけどさ、知らないやつに己のスキルや趣味嗜好、あるいは内臓ぶちまけて描くこの巨大作品、家族親戚知り合いに招待券渡してご笑覧あれって、その度胸にどうあれ感服、つまりそれはどこにもやり場のない衝動抱えてた表現者の性、探し続ける究極の一枚、おしまいまで持ちつづけてついには故人展示。
 しかし普通の美術展とは違う部屋の雰囲気、ちょっと大きめな話し声は受付カウンタ、光るフラッシュは光る頭の入選者の記念写真、まあこんなのもいいんじゃねえの公募展。なぜか人の多い写真部、お年寄りの多い工芸部。忘れちゃいけないのは版画部、この部だけが作者のコメントを添付、全部読んだがこれがおもしろいじゃん。
 そうさちょっとは知りたいその作者の人となり、となりの人の絵ならまだわかるが、まったくわからんそいつのバックベースにバックボーン、いろいろの色の上に塗りつぶされた黒色の厚み、その端から少し見たいんだキャリアとリアル。言葉がいらないならそれもいいし、そうでもないならちょっとは知りたいあんた誰って。
 まったく、そんな感じで膨大な作品見通して足は疲れる、美術館の床は疲れる、いっそのことウッドチップ敷き詰めて足にやさしく、カビにもやさしく、おっとそれってたぶんだめらしく。
 目的果たしたらあとは、空腹満たしたく千円のバイキング、そして二つの足で踏み倒すハイキング・イン・あのパーク。見つからない表現者の答え、たまに天高く届く。

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