2020の楔

 吹き抜ける風は秋風に近い。おれの髪からはいい匂いがする。シャンプーを変えたからだ。
 2020年に東京でオリンピックが行われるという。2020年。過去現在未来、貫く棒の如きもののはるか先に楔を打ち込まれたような気になる。おれの気持ちはいっそう沈む。
 今日でこの日記を書き始めてからちょうど10年になる。10年前に10年後のことを考えてはいなかった。その結果がこの有り様だ。2020年、おれがどうなっていることだろうか。生きているかどうか。決断を迫られているような気になる。
 2020年になって、まだこの憂き世にとどまっているつもりですか? と。おれの生き方がすっかり変わって、親しい友人たちと一緒にオリンピック観戦で盛り上がっている可能性? どんな幻覚剤で? と。
 思えば幼稚園に入るより前の自分はそれなりの存在だったように思えるが、すべての段階ですべて不能である烙印を押され続けてきた。おれという存在といえば、親か、せいぜいその両方の親の遺産と借金で生きてきたようなものだ。借金で生きている。この世に返すあてのない借金。不良債権だ。これがプラスマイナスゼロになり、さらにはプラスになって社会に還元できるあてはない。過去現在未来を貫く棒の如きものは、御柱祭のように坂道を下る。ただ、そのスピードは遅い。亀の歩みだ。
 いいかげんブレーキをかけるのをやめろよ。ブレーキ握りしめるなよ。とっとと突っ込むがいい。どんなきっかけで? どんな決断で? 区切られた未来のカレンダーがおれに死ねという。猶予と思うな。血液検査の結果は非常に良好だった。血糖値も、肝臓も健康を指し示していた。原因が客観的であるものについて、その不安の根本を薬で治療することはできない。レキソタンが最大量になり、アモバンが10mgになって薬代が増えた。
 吹き抜ける風は秋風に近い。おれがシャンプーを変えたのは本当だ。日記を書き始めたのが10年前というのは嘘だ。オリンピックが2020年に東京で行われるのは、たぶん本当だ。

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