ツルドクダミ(Polygonum multiflorum)は中国原産のタデ科のつる性多年草。葉は心臓形でドクダミに似る。花は単性、白く円錐花序をなして秋に咲く。地下に塊根があり、漢方薬で何首烏(カシュウ)と称される。
もともと漢方薬として栽培されたものが一部で野生化している。東京都心部でも見られるが、これも大名屋敷などで栽培されたのが逸出したものといわれている。
おれの安アパートが謎のつる植物に侵略を受けつつある。気づいてみたらドアの外の柱に巻き付いて生い茂っている。触ったらかぶれる、悪臭がする……ということはない。おそらく、ツルドクダミだろうと思う。葉がドクダミに似ているだけで臭いはしない。
とはいえ、朝晩の出入りのときに、壁方面につる同士でからみ合って侵攻してきているやつが顔にあたったりするとおもしろくない。一度思い切ってバシバシ切って捨ててやったが、なんのことはない、あっという間に逆戻りだ。
無論、根っこからぶっ殺してもいいのだが……。ここまで育ってしまったものをおれの一存でやってしまっていいのかよくわからぬ。枯れたら枯れたで後始末もある。それに、このつるは2階まで到達している。上の住人がこれを好んでいたらどうするのだ。それに、いっさい我関せずの隣の住人はどうなんだ。おれはそちらにも手を出していない。集団的自衛権は発動しない。一国専守防衛だ。
と、いったところで、やはりなにかもったいないという感じもする。つる植物に覆われた安アパートと、むき出しの安アパートでは、前者の方がおもしろいのではないか、ということだ。緑のカーテンだ。いざとなれば何首烏とかいう漢方薬でも採って売って生きればいい……それは無理か。そもそもツルドクダミかどうか確定したわけでもないが。
しかし、もしツルドクダミだとしたら、こいつはいったいどこから来たのか。皇居の石垣にも見られるという話だが、この横浜にも大名屋敷があったりしたのか? 薬草園があったりしたのか?(……大名でなく、下級武士が生活の足しにと庭で野菜を育てるのを幕府が禁じた結果、代わりに薬草や園芸植物を植えた……とかいう話もあるが、関係ないか) よくわからぬ。
まあ、少なくともおれは大名屋敷跡に住んではいない。自前の庭園もない。あまりおもしろい話ではない。おれは働きもせず、大名屋敷跡に住んだりするのがふさわしいと思うのだが、そうでないのが不思議でならない。下級労働者は食えねど高楊枝、せいぜい薬草栽培を嗜んでおります、などと嘯いてみようか。嘯いてみたところでどうにもならぬが。
……せめて葉が食用になればお好み焼きの具になるのにな。