あなたにおすすめする、おれが今年読んだ本5冊(くらい)

 おれはあまり記憶力がいい方ではない。かなり重症じゃないかというくらい記憶力がない。記憶力というか、記憶というものを軽んじて生きている。軽んじているどころか、疎んでいるといっていいくらいだ。とはいえ、おれが観たり読んだりした体験が、まったくの暗闇に落ちていって無くなってしまうのはもったいないと思う。おれはケチだからだ。だから感想文を外部記憶、すなわちこの日記に記す。そして、たまには沈めてある記憶の断片を浚ってみたくもなる。
 ……というわけで、今年読んだ本からよかったものをピックアップする。あ、今年読んだといっても、今年出版された本というとすさまじく数が少ない(あるいは、無い)ので、昔の本も含める。
 ちなみに、だいたい70冊くらい読んでいる。365日のうち1/5……ということは、だいたい一週間に一冊以上か(算数は苦手です)。簡単に読み終えてしまう新書(内容が頭に入るとは言ってない)などはあまり含まれていないので(もっと簡単に読める絵本が入っていたりするが)、読書人とはいえないまでも、まあそこそこ読んでいるといっていいかもしれない。しかし、ビジネス書やライフハック自己啓発本の類が一冊も入っていないのはやや偏ってる気もする。もうおっさんなのだから、死ぬまでに一冊くらいそういう本を読もう。

ニック・ハーカウェイ『世界が終わってしまったあとの世界で』

世界が終わってしまったあとの世界で(上) (ハヤカワ文庫NV)

世界が終わってしまったあとの世界で(上) (ハヤカワ文庫NV)

世界が終わってしまったあとの世界で(下) (ハヤカワ文庫NV)

世界が終わってしまったあとの世界で(下) (ハヤカワ文庫NV)

 おれが読んだのはほんど小説だが、これが抜群におもしろかったといえる。穴や土台で弱いところがあるのかもしれないが、そんなものを吹っ飛ばす推進力がある。話には推進力がなきゃいけない。それがこの小説にはあった。そして、ところどころでひっくり返ってしまうような仕掛けもあって、おれは見事にひっくり返ってしまった。ひっくり返らない人もいるだろうが、おれはひっくり返った。みながひっくり返るかしらないが、ともかくおれはひっくり返ったのだから、素直にこいつはやばいぜ、と勧めたくなるのだ。
 ちなみに、同作者の『エンジェルメーカー』も悪くはないし、趣味的に『エンジェルメーカー』のほうがいい、という人もいるかもしれない。おれはどちらかというと『世界が』。いずれにせよ、ハーカウェイへの信頼は揺らがない。

エンジェルメイカー (ハヤカワ・ミステリ)

エンジェルメイカー (ハヤカワ・ミステリ)

ベン・H・ウィンタース『地上最後の刑事』、『カウントダウンシティ』

地上最後の刑事

地上最後の刑事

カウントダウン・シティ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

カウントダウン・シティ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

 ミステリ、あるいはハードボイルド+SFものの一冊、いや二冊。続きものだからまとめていこう。地球に小惑星が衝突するのがわかった終末の世界で、主人公の刑事が便所で見つかった首吊自殺の件を黙々と捜査していくといった話だ。わりと面白い。読んで損はない。三部作の二作になるらしいが、完結編も……と思ったら出てた。気づかなかった。

世界の終わりの七日間 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

世界の終わりの七日間 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

 これはもう「今さら読んだの」の世界だし、映画も「今さら観たの」の世界だろうが、オールタイム・ベスト級と称されることもあるであろう、さすがの小説だった。それ以上いうことはない。ちなみに、ほかにもう一冊カズオ・イシグロに手を出してしまったが、なにか退屈だったので読みきらずに放ってある。

釈徹宗『不干斎ハビアン 神も仏も棄てた宗教者』

不干斎ハビアン―神も仏も棄てた宗教者 (新潮選書)

不干斎ハビアン―神も仏も棄てた宗教者 (新潮選書)

 「日本になぜキリスト教は根付かなかったのか?」というのは、わりと日本人の好きな話題じゃないかと思う。主語が大きい? じゃあ、わりとおれの好きな話題である。そこで不干斎ハビアンである。1565年生まれのハビアン、最初は禅の坊主でそのあと伴天連に転じ、さらに再転向して今度は耶蘇を攻撃する。キリスト教者としての著書も、逆にキリスト教攻撃者としての著書も残っている。そこに現代にも通じる比較宗教学が見られる。あるいは、現代的な宗教観が見られる、という。とりあえず「日本になぜキリスト教が」話が好きな人は読んで損はないと思う。

アラン『幸福論』

幸福論 (岩波文庫)

幸福論 (岩波文庫)

 あ、ライフハックっぽいの一冊あったし、これは面白かったな。うん、これももうだいたい中学生くらいで読んでおくべき本(だからといって人生が変わるかどうかはしらない)だろうし、とりあえず読んでなければ読んでおけという本に違いない。さすがヴェイユの先生である。

『死のエピグラム 一言芳談を読む』

死のエピグラム―「一言芳談」を読む

死のエピグラム―「一言芳談」を読む

 もっとも、『幸福論』よりおれの心情に寄り添うのは「一言芳談」である。「疾く死ばや」、「疾く死ばや」……。



 ……こんなところだろうか。え、佐藤泰志佐藤泰志『そこのみにて光輝く』を読む - 関内関外日記(跡地)佐藤泰志『きみの鳥はうたえる』を読む(あるいはインターグランプリについて) - 関内関外日記(跡地))が入ってない? いや、今年読んだなかでは、なんか一歩パンチが足りなかったんだ。まるでハワイアンイメージに勝てなかったインターグランプリ(どんなレースか流石に観たことがないのでわからんが。ハワイアンイメージ皐月賞はあったが、サクラシンゲキが中途半端にハナを主張していた。すごい泥んこ馬場で最後は外ラチをぶん回していた)のようなものである。
 あとは、つらつらと見返していて、おれが引用したなかで一番好きなのはデニス・ジョンソンの『ジーザス・サン』(デニス・ジョンソン(作家)『ジーザス・サン』を読む - 関内関外日記(跡地))にあった次の一節だろうか。

 雨が降っていた。巨大なシダが頭上に垂れていた。森が漂うように丘を下っていた。急流が岩のあいだを流れ落ちるのが俺には聞こえた。なのにあんたらは、あんたら馬鹿らしい人間どもは、俺に助けてもらえると思っているんだ。