ヤマトイモ

 私はここ最近しばらくの間、小麦粉でお好み焼きを作って食べている。やはりお好み焼き粉とでは価格に開きがあるからだ。だいたい、小麦粉とお好み焼き粉で何が違うのか。長芋が違う。というわけで長芋を買ってみることにする。
 すると、そのスーパーでは、やたら大きな山芋しか売ってない。すぐにダメになる類の食材でないにせよ、「ケチりすぎて腐らせる」タイプの自分としては、ちょっと手が出ない。どうしたものかと思い、ふと横を見ると大和芋というのがあった。包装パックには「山芋より粘りが強い」ことをアピールしている。こちらは常識的なサイズだ。グラムあたりの値段でいけば割高だが、さまざまな要素を勘案し購入を決断。
 突然、メディア・リテラシーの話をする。私の理解しうる範囲で最短の説明をするならば、メディア・リテラシーとは「メディアを疑え」ということである。あらゆる媒体に潜む作り手の意識的・無意識的なバイアス。客観、中立の顔をして出てくる情報にも、疑いを持て、分析をしろ、という考えだ。しかし、なんとなく新しい言葉ではあるが、ぜんぜん馴染みのない考えでもない。例えば、宣伝・広告について多くの人は眉につばを付ける習慣があるだろう。それは情報と伝え手の関係が一目瞭然だからである。そして、私は「粘りが強い」という文句もそういう風に片づけた。大したことないだろう、と。
 私が間違っていました。大和芋はむちゃくちゃ粘り強い。二の脚、三の脚で後続を封じるセイウンスカイ(適当な逃げ馬が思い浮かばなかった)のように強い。すり下ろしてもボウルに下りてくれないし、生地と混ぜたらそのままダンゴになりそうな粘着力である。びっくりした。
 しかし、仕上がりはいい。ふんわりさっくり。ボリューム感も出る。そんなにたくさん使ったわけでもない。いつもと同じ小麦粉の量とは思えない。お得、満腹、大満足である。
 そして、問題は次に何芋を買うかということになる。扱いの面倒な大和芋で行くのか、芋の優秀性を評価して大きな長芋で行くのか。ほぼ毎日お好み焼きの自分ですらこの苦悩だ。世の主婦の苦労はいかばかりのものなのか、想像するだけで深淵の闇を見る思いである。