ひょろっと歩くとびりっと破けますので

 一時期寒くて春遠のいて鬱々たる気持ちに陥ることならないで済んで快適の三月を送っておりましたが、そろそろ年貢の納めどきとばかりに気温上昇しこの赤肉団の腐敗性いかんともせず、眇眇たる我が身この三月渺渺荒野の真っ只中でそろりそろりと歩かねばなりません。肝要なるは不要な上下動を心の臓に伝わらせぬことにほかならず、映画でニトログリセリンを運搬する登場人物の心持ちで細心の注意をもってコンクリートの道をアスファルトの道を石の階段を二本脚交互に歩かねばなりません。ともすれば滞る呼吸もこまめに行って大きなため息で心臓を刺戟してはいけませんし、ちょっとした呼吸の乱れは心臓をふるわしますし、私の目や鼻や口や耳や皮膚という皮膚を出入りする何かにもやらにもぴちぴちと動かぬよう御願いせねばなりません。