植木等の思い出

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クレイジー・キャッツ植木等さんが27日午前10時41分、呼吸不全のため都内の病院で亡くなった。80歳だった。

 俺が生まれて初めて買ったCD、植木等の「スーダラ伝説」(ASIN:B00005EJWG)だったんじゃないだろうか。正確には二枚目か三枚目かもしれないが、とにかくCDというものを数枚しか所有していなかったときに、その大きな部分を占めたのがそのシングルだった。大きく占めるのも当然で、そのシングルは植木等の名曲メドレー。これに魅せられないはずがない。自分がそういう人間とはほど遠いことを知りながらも、そうなりたく、その心持ちになりたく、幾度心の中で「俺も無いから心配すんな、見〜ろよ〜白い〜雲、青い〜空〜、そのうちなんとか、な〜るだ〜ろう〜♪」(この表記から俺の音痴を悟られたい)と歌ったことかわからない。始まりが中途半端だが、ともかくそこから、なのだ。
 植木等を一度だけ生で見たことがある。大船でだ。大船の警察署だかの一日署長ということで(この設定自体がコント的かもしれない)、あの狭い駅前をパレードするというのだ。俺はちょうど日能研の帰りで、「スーダラ伝説」の植木が見られるということで、たしか友達を誘って、大勢の人の中で植木等を待ったのだ。しばらくして、オープンカーだかなんだかの上に、警察の制服を着た植木等がやってきた。チビの俺は必死に見上げて、そして、うまいぐあいに植木等と目が合ったのだ。そのときの植木の表情は今でもはっきりと覚えている。無責任男の愉快な笑顔でも何でもなく、今適切な言葉を探すとすれば「素」だった。あるいは笑顔で手を振るような、一連の動作の間の一瞬の隙だったのだろうか。なにか、驚いたような、びっくりしたような、何とも言えない普通の表情で、俺と目が合ったのだ、確かに。笑顔で手を振る植木等だったら、これほどまでに強く心に刻まれたのかどうかわからない。ともかく、俺は植木等を見た! そして、その植木は、想像していたのと違っていたけれど、決して俺を裏切るものではなかった。目が合ったんだ、確かに。あれが植木等だったんだ。
 その植木等が死んだという。俺は植木等の業績のおおよそは知らない。上で書いたくらいだ。だが、それ以上がなんだ。俺は植木等を見たんだ。合掌!