競艇ツケマイ読本―水上のモンスターたちの“水面下” (別冊宝島 (318))
別冊宝島『競艇ツケマイ読本』を買って読んだ。思い返せば、俺の競馬黎明期には別冊宝島の競馬読本シリーズがあった。だったら、今、俺の競艇黎明期に別冊宝島があるのもいいだろう、と思って購入したのだ。97年の発行。一発出て、シリーズになっていない。とはいえ、これがきっかけで黒須田守さんなどのライターが競艇に進んだのだから、なかなか意味のあるムックとも言えよう。
内容の方は、「競艇入門」的な色合いが濃い。「競馬読本とか読んでる競馬ファンとかに競艇を知らせよう!」みたいな、そんなところがある。競馬読本シリーズの方は、ほとんどエピソード中心で、「競馬の仕組み」的なもんはほとんど記されてなかったと思うが、そこが違う。これは、今現在初心者である俺にとってはありがたい話ではある。しかし、その分ちょっとエピソードの濃さが少ないかな、などとも思う。もし続刊があったのならば、知る人ぞ知るB級個性派レーサーや、伝説の好プレー、珍プレーなどにページが割かれていたのであろう。
イントロダクションにはこんなことが書かれている。
そんな選手たちを見てきたズブズブ親父、加藤栄は熱く主張する!
「公営競技のトップどころといえば、武豊、岡部幸雄、吉岡稔真、神山雄一郎なんてところが有名ですけど、ハッキリ言って植木と上瀧は彼らよりぜんぜん上ですよ」
なんというか、時代を感じさせるというか。岡部、吉岡、植木はすでに引退しておる。
またこの加藤栄はこんなことも書いている。平成8年賞金王決定戦の優勝戦、植木通彦について。
……植木のツケマイが決まったとき、「おっ、やっぱり植木かあ……植木来ちゃったよ、すげえなあ」って感じで、アタシ特観席にいたんだけど、異様などよめきがあったんですよ。ハッキリ言って、あれだけすごいツケマイは、競馬なんだけど91年ブリーダーズCジュヴェナイルのアラジ以来です。競馬知らない人にはわからないかもしれないけど(笑)、世界2大ツケマイはアラジと植木。それを両方ナマで見たのは、世界広しといえどもアタシだけでしょう(笑)。
‘ワンダーホース’アラジは、ツケマイで勝ったのか!
アラジ産駒といえば、俺はドラールアラビアンの末脚好きだったよ。と、それはともかく、冒頭の野中和夫のインタビューが面白かったので、メモをする。
野中和夫インタビュー
‘モンスター’野中和夫。こないだ生まれて初めて買った『BOAT boy』誌に引退記事、インタビューが載っていて、概要は知っている。まあすごい選手だ。とりあえず記者がビビリまくってるところから始まる。それがいい。して、最初不機嫌だった野中も、プロの仕事の話になるにつけ、エンジンが暖まってくる。太字が野中。
―私は植木通彦選手と同い年なんですよ。植木さんはあれだけのスターじゃないですか、で、ワタシはしがない……、
「その『しがない』というのが僕にはわからん。よく自分のことを『しがない』言う人おるけど、しがないことはやめたらいいやん」
―いや……。
「こういうマスコミ関係って、最後は評論家でしょ。『しがない』サラリーマンが評論家になるわけや。それはプロの仕事やない。僕は、それを見ると落ちるところへ落ちてるなと思う。そもそもサラリーマンなんて仕事はないんや。僕はアンタをサラリーマンとは見てないから。本を作るプロなんでしょ」
と、プロとはなにかの話になる。
―野中さんも競艇のプロですよね。そのプロという意味はなんですか。勝つことですか。
「違うね。ファンに信頼されることや。プロに信頼されても、それはプロやない。お客さんに信頼されることや」
―勝てばファンに信頼されていきますよね。
「飛んでも(負けても)信頼される走りはある」
―それはどんな走りですか。
「それはファンが決めること。一生懸命、選手は走ってる。歌手でも、1ヶ月公演ならそれで1日1日ファンを楽しませなきゃあかんのでしょ。競艇もそういうことや」
うーん、すごいな。「俺は勝負師やない、勝ち師や。勝負師とは勝ったり負けたりする人のことやから、俺は勝つことしか考えとらん」という一方で、プロとはなにかというと、これだもの。かっこいい。
さらには、ギャンブルということについてこう言う。
「ギャンブルの経験がなかったら、こういう競技をやってくのは無理でしょ。うちの関係者でも、競輪でもパチンコでも、そういうの知らなきゃ無理と違う? うちの業界の人たち、ギャンブル知らないんだったら、ほかの会社に替わったほうがいいよ。ギャンブルで給料もらうんであれば、テラ銭をどう使うか、お客さんにどうやって投票券を買ってもらうか、それを考えなきゃいかんでしょ。だから、ギャンブルをしない者は、うちの業界におっても無駄ですわね。
昨日(平成9年4月3日)ホクトベガが外国で死んだけど、勝負というのは一つ間違えばそういうことがあるわけですからね。そういうのをわかってないと、仕事できないでしょ。だから、競艇業界の人間でも、ギャンブル知らない人はやめてまえ、と思う。麻雀だろうが何だろうが、どんどんやれと。悔しさを知らなきゃね。負けた悔しさを知らなきゃあきませんわ」
ホクトベガ……、はともかくとして、これはいい。南井克巳は競輪ファンだったと思うし、俺の好きな佐藤哲三は競艇ファンだ。これはあると思う。して、野中本人のギャンブルというとすごい。
―野中さんはギャンブルはお強いほうですか。
「ええ。僕は競馬だったら1年に1回くらいしか買わない。有馬記念か菊花賞。馬いうのは、それくらいの時期にならなわかりませんから。自信がなかったら買えません。自信あったら、ドカンといきますわ。120円の配当でも、自信あったらいくよ。たとえば500万とかね」
―1レースで!?
「1年間で500万負けるのも、1回で500万負けるのもいっしょでしょ。それが勝負ちゅうもんやで」
―それにしても1レースで……。
「勝負師ちゅうのは、1レースから12レースまで全部やる人や。だから、勝ったり負けたりでしょ。勝ち師だったり、負け師だったりするわけや」
俺は勝ち師だから……野中の言葉はそう続くのだろう。
うーん、もうなんというか、たくさん買ってはたくさん外してやる気をなくし、たまに自分なりにぶっ込んでみても凹んでばかりいる俺からは想像のつかない領域。せめて勝負師になりたいぜ……。
と、まあこんな感じで、今さら「野中すげー」とか思っても遅い(=野中の舟券を買えない)わけだけど、まあ競艇にはちらっと入りかけてるぜ、と。
「僕らの時代というのは競艇がメジャーじゃなくて、関係者もメジャーにしようと頑張ってた。でも、『競艇をメジャーに』て言い始めて20年たってますねんで。SGでもスポーツ新聞の1面に載ったことないんですから。競馬だったら1面載りますもんね」
さて、俺の感じでは、競艇だって今やスポーツ新聞の1面載ってるぜって感じだが、さて競艇はメジャーかどうか。正直、メジャーとは言えないだろう。競馬ファンとしても、せいぜい武豊、ディープインパクト。ウオッカでぎりぎりセーフ、いや、アウトくらいの壁がある。ハッキリ言って、松井繁とかの知名度は低い。で、そこに俺のようなマイナー指向のギャンブル好きが入ってきても新規参入とはいえんだろうが、まあちょっとは競艇のことつぶやいたりするよ。おしまい。
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