レトロニムとはしらなんだ

 昨日、コーヒーのことを書こうと思って、ふと、「レギュラーコーヒーの意味って、今、俺が使おうとしているので正しいのかな?」とか気になって、Wikipediaを見た。
wikipedia:コーヒー

飲み物としてのコーヒーは、直前にコーヒー豆から抽出して飲むレギュラーコーヒーと、レギュラーコーヒーから工業的に作られるもの(インスタントコーヒーや缶コーヒーなど)に大別できる(「レギュラーコーヒー」はインスタントコーヒーや缶コーヒーに対するレトロニムである)。コーヒーの淹れ方や飲み方は地域によってさまざまであり、また個人の嗜好によっても大きく異なる。

 「レギュラーコーヒー」はインスタントコーヒーや缶コーヒーに対するレトロニムである……って、レトロニム?

wikipedia:レトロニム

レトロニム (retronym) とは、ある言葉が時代とともに意味が変ってきた場合に後から付けられた名前である。

 なんと、『機動戦士ガンダム』が「1st」と呼ばれるようになるそのことに、名前があったのか! これはたいへん面白い。そうだ、ザクIだって自分がザクIだとか旧ザクである自覚なんてないわけで、IIその他が出てきて、はじめてそう呼ばれるようになったわけだ(どのみちザクに自覚はないと思う)。競馬でいえば、「初代ミスターシービー」とか「初代ヒシマサル」とかか。あと、たとえば、歴史小説とかで、「俺が大モルトケだ! 覚えておけ!」とかいう場面があったとしたら(どんなシチュエーション?)、そいつは間違い、アナクロニズムに陥っているというわけだ。いやはや。で、一覧など見ていると、これが面白い。
wikipedia:レトロニム一覧

固定電話
携帯電話の普及により従来型電話機や電話システムに対して用いられるようになった。

 これなどはわかりやすい。

ダブル立直
もともと、立直は第一ツモ時しか行えなかったが、それ以外の時点でも宣言できる「途中立直」が普及した結果、そちらが立直と呼ばれるようになり、本来の立直に別な呼び名がついた。

 が、こんなのは知らなかった。ダブリーが先にあって、あとからリーチが生まれたとは。なんとなく、先にリーチが生まれて、後から「天和、地和、人和もあるし、一発目のリーチにも役つけようぜ」ってなったのかと思ってた。
(追記:人和も一種のレトロニムというかなんというか、時を経るなかでいろいろある、そういうものだった。→wikipedia:人和

フェンダーミラー
ドアミラーの登場により、従来型を区別する際に用いられるようになった。

 これなども、言われてみればというような。
 ……というわけで、なんというか、俺は言葉のこのあたりが好きでしょうがない。あと、中川いさみの漫画で「ジャイアントパンダではない素パンダ」が出るネタとか、「トゲ付きダルマが流行したあと、普通のダルマはトゲナシダルマと呼ばれるようになった」みたいなネタとかあったと思うけど、そのへんとかなんかおかしさを感じさせてくれるものでもあるよレトロニム。俺、澁澤龍彦が小説の中でたまに小ネタとして挟んだり、『エーコの文体練習』とかに出てくるようなアナクロニズムも好きなんだけど、なんかそれに近いものがある。まあそんなわけで、今後はレトロニムに注意して生きて行きたいと思います。おしまい。

追記:wikipedia:レッサーパンダ

初めはレッサーパンダは単に「パンダ」と呼ばれていたが、後にジャイアントパンダが発見されて有名になると、単に「パンダ」といった場合はジャイアントパンダの方を指すようになってしまった。

 これもレトロニム。本当の素パンダはレッサーパンダ(レッドパンダ)。