競馬やってきた俺の競艇事始め


 1月11日に江戸川競艇場を訪れた。競艇場に行くのは初めてだった。施設、雰囲気その他たいへんに気に入った。写真も撮った。そしてもちろん、舟券も買った。そのあたりのことについてメモをしておく。ちなみに、以後出てくる「競艇は」という主語について、正確には「競艇歴数日の人間が江戸川競艇場で見た競艇は」であることが多々あると思うが、めんどうなのでいちいち記さない。

舟券は当たりやすい?


 舟券は当たりやすい。競馬や競輪に比べて。……べつに競艇をなめているわけでも、バカにしているわけでもない。これは当たり前の話だ。なにせ6艇立てだ。確率の問題だ。競馬は最大で18頭立てだし、競輪は9車だ。つまりは、当たりやすいのだ。これが、第一感であった。そして、初めて競艇場に来たような人間には、これが最高のご馳走なのだ。たぶん。そうだ、俺はこの日よく当たった。3レースか4レースから買い始めて、転覆のあった2レースのほかは1つか2つしか外していない。
 ……よく当たったか? しかし、ともかくそこそこの配当のほか、ちょいプラス、トリガミなども含めて、まあ、ビギナーズラックというものだろうが、払い戻しを受けられた。払い戻しを受けると、やはり次のレースへのやる気も湧く。精神的な元手というものだ。これで結果、野口分で財布が厚くなって帰るならば、それなりにいい気にもなる。ここだけの話、いい気になると悪い気はしないのだ。悪くない話じゃないか。
 それで、まったくの見当違いの可能性もあるが、一応感じたところを述べると、なんとなく競艇場の客の空気が悪くない感じなのは、それなりに払い戻しがあるからじゃないか、などと。もちろん、この日の江戸川、客層、寒さ、その他いろいろの要件もあるが、ともかく俺がそう思ってしまうくらい「舟券は当たりやすいからいいな」という思いをした。
 いや、そんな上手い話ばかりじゃないのは、言われんでもわかっとる。でも、そういう先入観を植えつけられたのだ。だいたい、競馬初心者が競馬場に来て、流行りの3連単ばかり買って、いったいどれだけの人間が悪い気をしないで帰れることだろうか。そのあたりのことだ。そういえば俺が南関競馬というか大井競馬を「いいな!」と思ったのも、「地方は頭数が少ないからいいや」というものであった。

舟券は予想しやすい?

 これまた競艇ファンに対して傲岸不遜な物言いであることを詫びる。甘い博打なんてない。ただ、似たり寄ったりの成績馬12頭くらいが1500mくらい走るのを予想するのに比べれば、なんというのだろうか、手がかりがある。手がかりというか、明確なバイアス。「大井の千四内枠有利」以上であろう、「イン有利」。これが素人にとってはありがたい。とりあえずイン有利。それがいい。
 しかも、江戸川競艇は枠なり進入しかない。内から1-2-3-4-5-6だ。これがありがたい。だいたいボートピアなどで見ていて、競馬ファンとして戸惑うのは進入であって、そこが見せ場だとか、いや、ルール変更で今はつまらんとか、なんかいろいろあるようだが、ともかく、とりあえず手元の出走表とは別に、またその想定とは別に、スタート展示であたりをつけねばならんとか、そのあたりでちょっとこんがらがる。その点、江戸川は枠なりだ。競艇にとって大切な部分がすっぽ抜けているのかもしれないが、素人にはありがたいのだ。
 というわけで、「江戸川は1=2から買っておけばいい」とまではいえないのだろうが、とりあえずそういうバイアスがあるようだ。それがありがたい。それで、バイアスに乗っかって安めの配当を狙うもいいし、オッズに色気を出して、4枠、5枠頭も買ってみたりとか、それでも裏を押さえておいて、とりあえずプラス、元取り、トリガミでもいいというか。だいたい、色気を出して流してみるといっても、6艇しか走ってない。これがいい。
 まあ、これが予想と言えるのかどうかもわからん。だいたい、俺に競艇の基礎知識がない。「周回展示のタイムってどう役に立つの?」みたいな。あと、競馬だと出てこない点数というのもわからん。それで、レースになっても目の前の1マークで起こったことが、捲りなのか差しなのか捲り差しなのかもわからん。でも、だ。それでも、6艇立て、イン有利という二点によって、なんとなく楽しめるところがある。決まり手がなんだろうと、終わってみて電光掲示板に上がった数字とてめえの券の印字が一緒だったら、それで楽しいんだ。まったく。

舟券のオッズの感じが性に合う


 そしてまあ、またこれはこの日の江戸川ならではなのかどうかわからないが、配当の幅というものが、なんとなく性に合う。具体的にいえば、3連単で万シュウが出て、ちょっとざわめくくらいの。馬連までの時代の競馬というか。そりゃ、10万、100万馬券が出てもざわめくが、べつに自分に縁のない、たんに数字へのざわめきだ。それにくらべて、この万シュウは自分に近しいのだ。なんとなく。なんとなく、あれやこれやの上で、穴が出たなという感じがする。正直、多頭数競馬の3連単で5万、10万くらいついても、それがどの程度の人気薄かみたいな感覚が遠くて、どうも実感に乏しい。昨年のJCDで10万馬券当てても、あまりしっくりこなかったところは、そこにあるかもしらん。
 もちろん、競馬で3連単買わなければいかんという法律もない。だいたい俺だって、単勝馬連がベースで3連単はあまり買わん。しかしまあ、馬連にしたって、頭数が多いと絞りきれないし、はっきり言って走るのは馬だし、なんというのだろう、ちょっと俺の思考ではカバーしきれない。ここで言う「カバーする」というのは「当てる」という意味でなく、なんとなく把握の上買えるというか、そういうところで、そのあたりなんだ。
 それになんというか、最初の軸選びから「どうしていいかわからん」と途方に暮れるところがある。そのために、俺はおおまかな血統傾向から当たりをつけるという意味で、有料サイトの「競馬 - ブラッドバイアス血統馬券プロジェクト | 亀谷敬正の競馬予想 予想データ | blood-b.com」とかを利用したりしていて、それによって去年の回収率は90%に乗せることができたのだけれども(←俺にとっては上出来すぎる)、まあ競艇だと最初から絞れているというか、そういうところ。そうだな、やっぱり「みなが互角、どれが勝つかわからない」より、いきなり内枠と外枠で相当に差があって、参加者もそれを知っている(=しっかりオッズに反映される)というのが、とりあえずとっつきやすい。むろん、「バイアスがあるのに参加者がそれを知らない」という状況の方が、バイアスを掴めている人間には見返りが大きいのだろうが、たとえば血統を中心としたバイアスとて、どこまで、というところもある。ただ、ないわけではないので、俺はそれを頼りにするのだ。

その他、競艇に初心者が望むこと

 あとは、現地でいくつか感じたこと。まずあれだ、競艇選手の顔が見えないこと。これが物足りなく感じた。場内放送で、部品交換した選手のインタビューが流れたのだけれども、ああいう感じで全員のコメントが見たいな、と。一言でいいんだ、「下がることもなかったし、乗りづらさもない」とか、何言ってるかわかんないけど、そんなんでいいから。そりゃまあ、べつにおっさんの顔見て買うわけでもないし、肌の張りから調子を見極めるようなわけでもないけどさ。ただ、たとえば馬にもパドックがあって、自分が買おうとしてる馬の毛色がなんだとか、顔に変な流星があるだとか、でかいとか小さいとか、眠そうだとか尻っぱねしっぱなしだとか、なんかあるていどそういうの見えた方が、そいつの馬券を買ったときに、ちょっと感情移入しやすいというか。
 まあ、もっとも、この手のコメントというのは、専門紙の利権といったらなんだけれども、それとバッティングする可能性はあるのかな。でも、馬のパドックみたいなところ、おっさんが無言で6人ぞろぞろ歩いてても(いや、若い選手もいるし、この日はいなかったけど女性選手もいるんだけど)、お互い照れるし、気まずくなりそう。そうだな、たとえば、レースと関係ないインタビューにするとか。「じゃあ皆さん、好きな食べ物は? 1号艇から」みたいな? それで、「え、エクレアです」とか。そんな、おっさんの好きな食べものがエクレアって知ってどうすんだという話か。ようわからん。
 あとは、なんかレースとレースの感覚が短くない? まあ、これは良し悪しだし、なにより俺の慣れの問題もある。ただ、レースが終わって、競馬とは違って速攻で確定して、次のレースの展示が始まって、展示の結果と部品交換、当日成績をビジョンとかで見て、それでもう結構締切に近くて……というような。押せ押せという感じ。うーん、まあ、これは慣れか。それにこの日は、やっぱり川の競艇場らしく「通過した船の影響で発走が……」てな具合で、到着時も本来なら5レースくらいだったのに「え、まだ3レース?」とか、そんな感じだったし。

 あとはまあ、そんなところか。正直、初心者にとってはレースの質とかさっぱりわからん。たとえば、もっとよく知らない状態で買って見ていた去年の賞金王決定戦も、1号艇と2号艇がなんかミスったかどうかわからん隙を松井繁がサクッと突いてそのまま終わった、ようにしか見えず、テレビ実況で「鳥肌が立つ名勝負!」とか言ってても、「そうなの?」というような。
 このあたりは、こっちの見る目の問題だけれども、ただ、なんというのか、まあ俺は俺の知性や感性しかないので、他の人がどうかというのは正直わからんが、「すごい!」と思えるようになるまでのハードルみたいなところがあって。たとえば、競馬だったら、まったく知らん人でもディープインパクトが後ろからスーって上がっててぶっ放すのとか、「すげー」って思えるようなところあるかな、とか。だいたい俺にしたって、競馬に「すげー」って思ってしっかり興味を持ったのは、テレビでたまたま見てたレースでスティールキャストが大逃げを打ち、なおかつその母親も似たような馬だったと実況したのを聞いてのことだった。この点で競馬は有利かなどと思う。わかりやすいし、それほど一瞬、一コーナーで勝負が決まらない。
 ……しかし、あのときアナウンサーがスティールキャストの母プリティキャストに触れなかったら、俺は競馬ファンになっていなかったかもしれない。今後もしも馬券を買わなくなり、他の競技に流れるようなことがあっても、あのとき感じた打ち震えるような思いは消えないし、その点で競馬は永遠だ。ちなみに、そのレースを勝ったのはナリタブライアンとかいう馬だった。ナリタブライアンにとくに思い出はない。

 私が初めて意識して競馬のレースを見たときの話をする。そのレースは、ナリタブライアンが勝った菊花賞である。そのときの私はナリタブライアンの名も、菊花賞というレース名も、三冠馬の意味も知らなかった。当時、競馬にはまった友人が、毎日競馬の話をしてくる。そこで、たまたま日曜にチャンネルを回していて「ちょっと見てみるか」と思っただけである。では、ナリタブライアンの走りに感動して競馬にひかれたのか。いや、違う。スティールキャストである。
 スティールキャストはぐんぐん逃げた。逃走も逃走、大逃走である。競馬を知らない私にも、これは何か異常なことだと思った。その時である。実況アナが「母プリティキャストを髣髴とさせる大逃げです」と言ったのだ。私はそこに、競馬の深淵を垣間見たような気がした。単に名前のついた動物が走っているだけではない。その背景には名前と個性を持った父と母がおり、その父と母にも……。

私が競馬をはじめた訳/ファインモーション引退 - 関内関外日記(跡地)



 

この世の栄光の終わりに

 というわけで、話は逸れたが、このあたりが俺の競艇事始め。そのあと、『BOAT boy』という雑誌を買ってみたりして、「おお、あの日の最終で勝負してみた大串が新鋭王座に出るのか」などと、とりあえずあの日の江戸川ベースに知識などを増やしているところ。正直、競輪よりとっつきやすさを感じたところはある。ただ、俺ははまりやすいが飽きっぽく、なおかつどれだけ博打にうつつを抜かす余裕(どちらがうつつかといえば、俺は博打が圧倒的にリアルなのだけれども)がつづくのかもわからんので、そのあたりはなるようにしかならんかな、と。それじゃあ。

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