江戸川競艇に行きたい
競艇場に行った。江戸川競艇だ。うまれてはじめて競艇場を訪れた。俺にとって競艇場とは、夕暮れの大井競馬場、向こうに見える青い建物と日の丸、平和島の気配だけだ。選択肢は二つ。「戸田か、江戸川か」。高島団地が近くにある戸田に行きたいとはじめは思った。しかし、下のテキストを読んで断固!江戸川派に転向したのである。
◇江戸川競艇は、楽しい競艇場です。
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はっきり言って、全国24場の中で各段に評判の悪いのが江戸川競艇場である。
「枠ナリ進入で進入の推理もへったくれもない」「1−2か2−1ばっか」「メンバーがいっつも一緒」「SGが絶対来ない」「植木が来ない」「松井も来ない」etc…確かに、その点に関しては申し訳ないが全く反論の余地もございません(笑)。児玉清でなくても「そのとーりっ!」とあいづちを打つ事に、何のためらいも覚える事はございません。
だがね、そんなこと言ってる人間は、本当の面白さを知らないのよ。
断言してもいいが、江戸川競艇は知れば知るほど奥が深い競艇場である。
「進入枠ナリ」を大前提としながら、トリッキーな魅力にあふれ、個性全開の布陣で激戦を展開する江戸川競艇は、「中華料理で一番難しいのはチャーハン理論(陳建一提唱)」に裏打ちされた「単純の中の味わい深さ」を凝縮した、「競艇を超えてしまった競艇場(誉め過ぎ)」である、とまたまた断言させていただく。
以下、かなり長く続く。俺は競艇のことはよくわからない。ただ、なんとも行きたくなる。伝わってくるものがある。そういうものだ。ちなみに、上の文章が書かれたのはいつかわからないが、施設面などでおそらく今と違っていることもあると思う。
まあともかく、俺は江戸川を目指した。なんだ、江戸川といえば、俺は延々と江戸川サイクリングロードを行き最上流まで行ったことがある。なじみがないわけではないのである。とはいえ、俺は総武線から都営新宿線に乗り換える方を選んだ。
江戸川競艇は川っぺりにある
船堀駅から路地を歩く。住宅地、堤防、なにか混乱している道路。その向こうに江戸川競艇場が見えてくる。歩いて競艇場を目指す客は少ない。建物に近づくと、やけに威勢のいい交通整理が出迎える。入口の屋台で専門紙を買う。選択肢は三つ。千円札を差し出し、「研究」と俺は言う。「研究」が言いやすそうだったからだ。おつりは百円玉で支払われる。入場ゲートは硬貨直接投入式である。売り子の女性のネイルは黒地になにか光るものがほどこされていた。館内に入る。すぐに外を目指す。「……思っていたより、さらに川だな」と思う。なにせ、川なのだ。みんなで、川を見る。それが江戸川競艇の基本的なスタイルである。なんとなく、開けっぴろげのような気もする。あるいは、川っぺりで勝手にはじめました、みたいな感じもする。実にいい。
向こうにはスカイツリーが見えた。ただ、角度のせいかなにか、あまり高く感じられない。スカイツリー、だよね?
最初に目に入ったのはこの大時計。上のライト二つと三角形が顔のようでかわいい。目に入るたびにいちいち「かわいいな」と思う。
競艇のボートは速い
事前に少し調べると、どうも江戸川競艇に写真撮影禁止という話はないようだった。俺はiPhoneのほかに、デジ一もどきを持ってきた。せっかくなので、少しでも大きく撮りたいということだ。ひさびさの使用である。競艇や舟券については稿をあらためる。モーターボートは、速い。馬より速い。撮るのはむずかしい。ターンになると少しスピードが落ちるからいいが、ストレートをぶっ放しているところは、本当に撮れない。見返してみると、波しか写っていなかったりする。
これなんか、飛んでいるもの。いや、しかし、モーター音も迫力だった。競艇場の外から聞こえたそれは、湘南育ち、本牧近く在住の俺にはなじみ深い、暴走族の音にも聞こえたが。
しかし、アップにして気づくが、選手はみなそれぞれなかなか凝ったデザインのヘルメットをしている。勝負服のように、ヘルメットのビジュアルを選手紹介とかに活かしてくれたらいいのに、とか思う。
屋上へ
屋上にも行ってみる。なぜかわからないが、屋上緑化されていて、ひとけがなかった。ただ、後半になって上を見上げたら、ぽこぽこおっさんの頭が並んでいたので、観戦スポットとしては悪くないのだろう。横の建物のガラスの向こうに、なにか仕事をしている人がいた。実況者だろうか。
高所恐怖症のくせに見下ろしたり。
上から見るとよくわかる、かも。とはいえ、やっぱり速いし、初心者にはわかりかねる。しかし、水かぶってるな、盛大に。
スタンド、そしてお客さん
客層。俺が事前に想像していたところでは「花月園よりは酷くないだろう。大井競馬とまではいかないだろうが、川崎競馬くらいのものではないか?」というあたり。ボートピア横浜については、立地が特殊すぎるので参考にならない、などと。
して、結果として、あくまでこの日の俺が感じた印象は、「競艇ファンは紳士だ」と。まず、野次らしい野次を聞かなかった。競輪と一緒で、人間が乗ってるもんだから、バンバン飛んでるもんかと思ったら、そうでもない。ピットというのか、選手たちが帰ってくるあたりも違いが、「バカヤロー、このガラクタ! 死んじまえ!」とか言ってるおっさんがいないのだ。これは正直、意外であった。
と、この話をあまり博打好きでない女の人にメールしたら、「寒さでみんなおとなしかったんだね」とバッサリ。まあ、確かに。そう、この日は結構寒く、レース時以外はみな建物内に引っ込んでいた。というか、レース時も中に居る人が多かったかもしれない。そりゃ、まあ、たしかに、なんだ、お年寄りばっかりよ。しかし、花月園よりは……と、花月園を引き合いに出していいかどうかはよくわからない。競艇ファンと競輪ファンで審議して決めてもらいたい。
ちなみに、俺は自転車のために買ったウェアなどによって、寒さ対策は万全だった。ガンガンに暖めた二階などにはいられず、一階か外をうろうろしていた。ただ、これによって競艇の先達たちの会話などを盜み聞きすることできなかった。これは失策。唯一聞いた味のある表現は、横のおっさんが独走する選手を見ながらひとりごちた「こいつはモーター2個ついてんな」であった。競馬の世界で「心臓が2つついてんな」や「脚8本だ」というのは聞いたことがない。ハイセイコーも同じ四つ脚なのである。
場内にはずれ舟券や煙草の吸い殻が落ちていることは少なく、大昔一度だけ行った札幌競馬場などを思い出した。
ヤギに餌を食わせる
なぜか場内にはヤギがいて、はずれ舟券を食わせろという。なにか寄付行為などと関係のあるもののようだ。俺も一枚食わせてみたが、なかなか食い終わらず少し恥ずかしい。横にははずれ舟券で作られたヤギがいた。怨念か哀愁かなにかわからないもので作られていて、部屋には置きたくないと思う。いや、そんなことを言ってはならない。世界のお母さんのためである。
新聞紙と競艇場のハズレ投票券でヤギの人形を作る体験講座を開催し、その参加費から得た収益金で、
http://edogawa-art.sub.jp/ivent/yagi_index.html
エイズに苦しんでいるアフリカのお母さんへ“本物のヤギ”を贈るプロジェクトです!
ちなみに、帰り際にここの募金箱に払い戻しで溜まりに溜まった10円玉を十数枚投入した。博打に勝つと心も広くなるのである。もっとも、その先に「逆両替機」なるものを見て、「しまった、そういうものもあるのか!」と思ってしまったのも事実である。俺は背も小さいが人間も小さい。
レースは続く
だんだん写真にも慣れてきて、流し撮りというのか、そういうのを試してみたりもする。おおむねうまくいかない。ここでは「スーパーピット離れ」(漫画『モンキーターン』で記憶に残っている単語)の必要とかはないんだよな……。
「新鶴田」という名字の選手だが、読みがストレートに「しんつるた」だった。この日の印象深いことのなかのひとつである。
川なので、ときおり漁師たちが網で魚を獲りにくる。地域の営みと一体化した競艇場の姿である。たぶん。
最後のおくりもの
最終12R。俺はもう、立ち去りがたい気持ちでいっぱいだ。すると、向こうから太陽が姿を現してくるではないか。きれいだ。みとれた。競艇ファンのおっさんも携帯で写真を撮っている。俺も撮った。寂光の世界だ。なにもかもすばらしくて、俺は江戸川競艇がますます大好きになった。
これは水面の光をさらに反射してるんだな。
最終レースは夕焼けの中おこなわれた。俺はこの日はじめてレートを上げて、「たくさんの諭吉さんが出てくる可能性」のある舟券を買った。裏を食った。おしかった。それでもいいんだ。よかったんだ、一日のプラスは確保したから。
おつかれさま、また絶対に来るから。
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