pity-cityの小さな犯罪

 帰ろうと思って自転車、ライトがあらぬ方向に曲がっている。ゴムベルト巻き付け式なのでそういうこともある。しかし、引き起こして見て愕然とする。バッテリーの蓋が外れて、中身が見えていたのだ。中身……、電池の収まるべき場所。電池はない。オフィスに引き返して懐中電灯、地面を探すも蓋はない。ふと思って横の植え込みを照らすと……あった、蓋だけ。電池はどこにもない。
 ライトに新しい電池を入れたらちゃんと光るし、蓋もカチッとはまった。使いかけの、単三電池二本だけが盗まれた。……なんだそれ!?
 自転車は雨や鍵忘れで数日間おいてあった。ライトだけが盗まれるのなら、それはそれで嫌な気持ちになるだろうが、それでも納得はできる。よく光るライトが、盗まれた。しかし、使いかけの単三電池二本。これだけだ。ライトだって簡単に外せるものだ。なんだ、嫌がらせか? しかし、もっと嫌がることもできるだろうに。そんなに単三電池二本が必要だったのか? 単三電池式ペースメーカーを付けた人が、不意のバッテリー切れ、ひっきりなしに鳴る警報音、「ブーブー、デンチザンリョウワズカデス、デンチヲコウカンシテクダサイ」。しかし、替えの電池も切らしている。このままでは死ぬ。あ、あれは電池式の自転車ライト……、「すまん、自転車の持ち主……」ガチャ、カチッ、カチッ、「ピーピー、エネルギーカクホサレマシタ」……いや、これはないな。ちょっと歩けばコンビニで電池を買えるからだ。
 翌朝、あたりを探したが、やはり電池は見つからなかった。いったいどういことだ。この街は悲しい。