打越の少女

 折りたたみ小径車で打越の坂を登って、登り切って、まだまだまだ元気だったので、二本目だと坂を下って、また一番下からギコギコ漕ぎ始めて、ふと道路の向こうがわをみると、自転車通行可の歩道を、セーラー服の少女が、ママチャリで、立ち漕ぎして坂を登っていて、そんなに急坂でないけれども、ちょっと面倒なところでもあって、おお、すごい、とか思いながらも、やっぱりこっちの方が楽で、座ったまんま抜くとき、ふと向こうを見ると目が合って、いや、暗かったから顔はわからないけれども、こっち見てて、こっち見んなとも思いつつ、なんとなく「愛花、つきあってくれ!」みたいな気持ちにもなって、そのままちぎって坂上でしばらく信号待ちしてて、青になって向こう車線に渡って、そのタイミングで向こうに少女も登り切って、それで根岸の方に向かって、また道を挟んで併走して、やっぱり「愛花、結婚してくれ!」みたいな気持ちにもなったんだけれども、よく考えたら、いや、よく考えなくても俺は三十のおっさんで、向こうはその半分くらいしか生きていなくて、結局のところ、俺は、ラブプラスに何を求めているかというと、幻想の恋人でもなければ現実の恋人でもなく、高校生であるところの自分の恋という、今回のこの地球の歴史の上には現れなかったことがらなのであって、暗い商店街、自転車にまたがった俺、孤独、後悔、秋風になぶられ、坂を登って坂を下り、坂を下っては坂を登る、行くあてのない追憶、そして自由。