趣味を見つけている人は、どうやって見つけているのだろうか。
熱中できるような趣味がほしい。
自分も見つけたい。このつまらない人生に、彩りを添えたい。
寝食を忘れて夢中になれることが欲しい。
俺はこのような話をよく聞かされる。俺が事務的でない話をする人間は世の中で多く見積もっても三人くらいしかいなくて、そのうちの一人である、俺のつきあってる女から聞かされる。私にはなんの趣味もない、なくなってしまったと女は言う。あんたは俺といてもつまらないのか、とは言い出せない。
彼女から見ると、俺は多趣味らしい。競馬狂いで、自転車にうつつを抜かし、カープを応援し、本を読み、音楽を聴き、写真を撮る。また、彼女の知らないところで、こうやってインターネットに居場所を持っていたりもする。アニメとラブプラスも忘れるな。なるほど、俺は仕事を除いてやることがたくさんある。
ただ、どれということもないし、なんとなくどうも多趣味というと気がひける。さらにいえば、果たして俺は競馬、自転車、野球趣味者といえるのかどうか、そこに引け目がある。俺が考える趣味者というのは、もっとエネルギッシュで、そのために一生懸命に働き、休み、遊び、熱中しているような人だ。
なんだ、俺もこの増田さんのように、砂を噛むような、灰色の生活を送っているのだろうか。そういう面がないといえば嘘になる。だいたい、この労働もどきに縛られている以上、自由なんてものはないのだ。夏休みって終わってしまうだろう。俺は終わらない夏休みがほしいんだ、心底。
しかし、一方で、俺は俺なりによろしくやってるぜというところもある。「俺の人生はこれだ」という一本の道、仕事でも遊びでもいいが、ただ一本の道、芯がなくとも、よろしくやれているというところがある。少なくとも、俺は心底ヒマになることはないんだ。いくらでもおもちゃがある。
孤独だったことなんかない
オレはオレが好きだ
オレの持ってる最上の娯楽はオレなんだ
二、三杯飲ませてくれたら全世界をやっつけてやるぜ
…………やっつけたいんだ!
これは、机の上にある『ブコウスキー・ノート』の帯から拾った言葉だ。本編は読みさしだから、これがどこに出てくるかは知らない。しかしまあ、俺に全世界がぶっつぶせる気はしないが(だいたい二、三杯飲んだら酔いつぶれる)、「俺の最上の娯楽は俺だ」というところはあるかもしれない。
……俺はそんなにおもしろいやつかよ? 人から見てどうというところは関係ない。俺にとっておもしろいかな? なんか、そこそこおもしろいように思える。いいぞ、そんなに悪くない。臆病な精神……いや、震え出す身体反応は、薬でシャットアウトしてしまっている。脳はぱちぱちと弾けてる、四六時中。
そうでなくとも、いちばんエロ、グロ、ナンセンス、説教臭くて教訓的、血や肉のリアルがあって、痛んだり気持ちよくなったりする、上演時間はきりがない、いつ終わるかわからないが、運が良ければラブプラス以上に長い。そんなメディア、娯楽、それが俺だとすれば、まあどこで砂を噛めばいいかわからない。
だからこのつまらない人生、地べたに這いつくばるような人生すらおもしろい。そうじゃないのか? たぶん、これが俺の底だ。最後の底板一枚。この底がなければ、自己肯定感というものがなく、心的報酬を得るための回路が断線してるんじゃないかって俺は、もう底が抜けて自我を維持できないんじゃねえかと思う。
いつも通る道でも違うところを踏んで歩くことができる。いつも通る道だからって、景色は同じじゃない。それだけではいけないのか。それだけのことだからいけないのか。
映画『スカイ・クロラ』に殺される - 関内関外日記(跡地)
……なんたってまた、意地悪なことを思い出す。まあよくわかんねーさ。わかんねーけど、俺はもっと脳の中ではげしく音を立てて、知識と認識を極彩色にそめあげていって、どっか楽しいところ、浄土ヶ浜に行ってもう帰ってこないつもりなんだ。誰にだって浄土ヶ浜はあるはずだし、とりあえずラブプラスの電源でも入れようぜ。
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そして俺は、いつかの冬の日、すぐそこの寿町に転がっているところ、役人に投げつけられた乾燥米の袋を開ける力もすでなく、うつろにパッケージの文言を追って、「水で戻すという手もあるのか!」とか、すごく下らない驚きの中で死んでいったりすれば、人生及第点と思うのだ。
『孤独のグルメ』を読む - 関内関外日記(跡地)
底ってのは、この「及第点」の一線。こんな風に死にたい。