ヒロシの名刺

 午後九時の大戸屋だった。
 「立派な名刺持ってるやつってのは、だいたい詐欺師なんよ、これが!」
 隣のテーブルで金髪のおっさんが疲れ気味のOLみたいな女に話していた。
 俺は俺の対面に座った女に、いっそのこと癌になって死んでしまいたいとか、そんな話をしていた。
 「ヒロシの名刺見たことある? ガハハ、ピカピカでさ、営業所とか支店とか、六つも七つも書いてあるでしょ!」
 隣のテーブルのおっさんはヒロシの名刺で盛り上がった。
 俺は俺の対面に座った女に、年金の話を愚痴ったり、将来への絶望をつらつらと述べたりしていた。
 
 ……でも、そんなことを述べながら、俺はヒロシの名刺が気になって仕方なかった。
 どんな名刺だよ、それ!
 つーか、立派な名刺持ってたら詐欺師って!
 ああ、俺は俺の人生よりも目の前の女よりもこの世界よりもヒロシの名刺が気になる。
 
 それはピカピカで、
 営業所とか支店とか、
 六つも!
 七つも!
 書いてある!!!