昨日の今日でしかない

東日本大震災発生から6日が過ぎ、被災地の一部では、混乱に乗じたとみられる盗みなどの犯罪が相次いでいる。

http://www.asahi.com/national/update/0317/TKY201103170165.html

津波で壊滅的な被害を受けた北茨城市では、住民が避難し留守の民家を狙った空き巣事件なども発生しており、県警では「困っている人を狙う非常に悪質な犯罪」としてパトロールを強化している。

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20110317-OYT1T00220.htm


 甚大な被害を受けた地域での、生きるためのやむにやまれぬ盗みのことは置いておく。もう少し余裕のある地域の、空き巣などについて。
 言うまでもないが、火事場泥棒はけしからんに決まっている。許し難い話ではある。しかし、だからといって、「災害時にも礼儀正しく掠奪も暴動もない日本人が……」などという物言いには鼻白む。大震災の前に、食い詰めて泥棒やってたやつがいなかったというのか? いたはずだ。窃盗犯も、空き巣も、性犯罪者もいた。いただろうが。災害時にも掠奪しない日本人のみなさん、日常に戻りましょう? 結構なことだ、おおいに結構。異論はないが、日常があったやつばかりだと思うなよ、と。あるいは、震災前にぎりぎりのところにいたやつが、震災で全部失って泥棒になることもあるだろう。いずれにせよ、地震があろうがなかろうが今日は昨日の続きでしかない。そういう部分もある。俺が震災前立派な人間だったことはないし、しょうもないやつはたくさんいた。そもそも人間はおろかでしょうもないし、それぞれその中でなんとなく生きてるんだ。違うか?
 ふと思い出すのは、3月11日の寿町近くの立ち飲み屋の光景だ。いつもと変わらなかった。いつもは競輪かボートを流しているテレビには、地震報道が流れていた。へたすれば、いつもよりにぎわっているようにすら見えた。不謹慎だと責められようか? 寿町のおっさんたちは、いつも避難所にいるような暮らしをしている。寿町に寝床があればいいが、マリナードの地下や、そこらのビルの下で寝てるやつもいる。なにか被害があったからなんだ、物品の不足があったからなんだ。
 ……まあ、もっと食べ物やなにかが行き渡らなくなって、もっともっと苦しいところにいくかもしれない。俺のいるところももっと苦しくなるだろう。はたして、序列は変わらないのか? ピラミッドは維持されたまま沈むのか。あるいは、真っ平らになるのか、すべてが顛倒するのか。それでもやはり、弱いやつ、馬鹿なやつから死んでいくだろうし、そういうものなのかもしれない。しかし、それでいいとは思わない。思ったところでどうなったものかしらないが。

追記:そういえば俺は昨夜から、自転車のライトをいちいち取り外すことにした。昔、平時に、電池だけ抜き取られたことがあったからだ。それとも、万が一のときのだれかのために、付けておくべきだろうか。ただ、今自転車のライトを盗まれると面倒なんだ。畜生め。


至福千年 (岩波文庫 緑 94-2)

至福千年 (岩波文庫 緑 94-2)

 石川淳の『至福千年』はどんな話だったろうか。こんなふうな、なにかの転倒が描かれていたように思う。思い違いかもしれない。