このあたりで一番おでんを売っているローソン

 寿町の対面にあるローソンに入る。東スポを買うためだ。このローソン、おれはしばらく新聞を売っていない、珍しいコンビニだと思っていた。なんのことはない、新聞の立ち読みか泥棒かに業を煮やしたか、カウンターの中に置いてあるだけだった。近ごろはカウンターの外には出たが、店の一番奥のレジの前に置いてある。白米をたくさん置いている。
 新聞と白米の話はどうでもいい。トロフィーが置いてあったのだ。入ってすぐのカウンターに。おでん売上で、どのていどの地域でのものかしらぬが、一等を獲ったものらしい。すぐにおでんをすすめる声が飛ぶ。派手な飾りもある。
 しかし、一等か。意外に思う。いや、70円キャンペーンとなるとここでは相当な強みかもれない。冬になれば気軽に暖をとるためによく売れるのかもしれない。夜中の1時や2時に通りがかっても人影のあるところだ、24時間売れ続けるのかもしれない。おれはおれの仕事のこと、金のことを考えるのは大嫌いだが、見知らぬだれかの商売の話などは大好きだ。そういうものだ。
 店を出ると、外の壁面にも馬鹿でかい70円キャンペーンのコピー紙が貼ってあった。すぐそこにファミリーマート、その先にまいばすけっと、右に曲がると新しいコンビニが開店準備中。勝負は終わらない。おれは自分が勝負するような話は大嫌いだが、他人ごとの勝負はついつい見てしまう。そういうものだ。
 
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 ある晩、そんな店内に「Utauyo!! MIRACLE」が流れてきたのである。あらゆる意味で似つかわしくない雰囲気。ドヤ顔のドヤではないドヤ系空気の中に、「ほんとに大好きっ!! テンション上昇 ルララ Powerful Gig Timeハートって ハートって ワクワク探す天才」である。「ハッピーはいつだってね "今"感じるもの 生きろ乙女 本能で、裸の」である。

 俺はもう、なにか涙が流れてきそうになった。近い未来か遠い未来か寿町の住人になった俺が聴いている、そんな気持ちになった。失われる美しいものがあると思った。俺は帰ってすぐにネットで安いフィギュアを注文した。それは涼宮ハルヒのものだった。べつになんでもよかったのだ。俺は俺を証すものがほしいと思ったのだ。

 このコンビニ。

……あれ、寿町のコンビニで、じいさんが「日の丸!」って言って、店員がすかさずラッキーストライク出して、「フハッ、そういう呼び方があるのか」と感心した話はどこで書いたのだっけ。

 このコンビニ。

 これは違うコンビニ。