おれは、いつ死のうか、その時機を様子を伺っている。そんな気がしている。この国がもっと貧しくなり、とても貧しくなり、多くの人が貧困の底に落ちてもがき、苦しみ、身を焼くさまを確かめてから、おれも後を追う。そんな気でいる。
そんな気でいるおれも、人から見れば、今まさに貧しさの底に直滑降している敗者であり、社会の底のほうでもがき、苦しみ、身を焼かれているクズ一匹にすぎない。あらためて考えてみれば、今現在、そうなのだろうと思う。他人を見る余裕などあるものか。焼かれているんだ。
その自覚が心の芯のところで足りないから、最初の段落みたいな、他人ごとみたいな、傍観者みたいなこと書いちまう。おれはますます貧しくなっていくし、その滑り台の加速に抗う術も気持ちも持ち合わせちゃいない。向精神薬や抗不安剤、そしてアルコールで麻痺させてるだけだ。致命傷を負ってる兵士にせめてもの安楽をと与えられるモルヒネ。驚きなのは地下鉄のレール。
人生のレールから転げっ落ちちまった。電車は行っちまった。でも、線路は続くよ? どこまでも歩いて行くのか。あるいは今にも壊れそうなトロッコにでもしがみつく? やだね、おれは体力も握力もねえんだ。なにより、判断するのが苦手だ。要は頭が悪いんだ。頭が悪いうえに頭がおかしいんだ。自動車の免許を持ってるけど、車を運転しちゃいけない理由は10個くらいある。旅に出る理由は1個もない。
おれに帰るべきところがあればと思わないこともない。アイダホでジャガイモ農家をやっている爺さんがいる、とか。ジャガイモ畑の上にはオレンジ色の発光体が音もなく飛び交ってアピールしてる。農家は一番ちいさいガキまでも飽々しちまってる。ある日、一体の発光体がキャトル・ミューティレーションよろしく収穫したジャガイモに穴を開けて気を引こうとする。実際に引かれたのは爺さんのレミントンM870の引き金だった。てめえが穴だらけになった発光体は弱々しく「殺してくれ」と言う。爺さんはその言葉を聞き入れず、拍車付きのブーツで一発蹴りをくれたあと、古井戸に発光体を投げ込んじまう。それがアイダホの男というものだ。本当にアイダホってのは、そういうところなんだぜ……。