Netflixで配信中の『ドント・ルック・アップ』。ある大学教授と大学院生が、地球に接近する彗星を発見する。接近どころか衝突する。これをアメリカ大統領に伝えようする。伝える。伝わっているのかどうか。マスメディアで訴える。訴えるが、世間に伝わっているのかどうか。当人たちには信じられない。政府も、マスメディアも、ほぼ確実に(科学者は100%といわない)地球を破壊する彗星について本気にならない。でも、政局の都合によって本気になってくれる。やった。でも、それも大企業の都合によって……。
おれがこの映画を観ながら思い浮かべていたのは、SF小説『三体』のことであった。『三体』と『ドント・ルック・アップ』双方を知っている人なら、すこしわかってくれるかもしれない。人類の宇宙に対する傲慢や悲観。『三体』に限らず、いろいろのSFが描いてきたテーマでもある。とはいえ、直近で読んだので『三体』だ。いざ、地球が(おれには英語のニュアンスがよくわからないが、「Earth」ではなく「Planet」と言っていた)どうにかなってしまう。そのとき、人類がどう行動するのか。この映画で描かれているのは、アメリカという国の人々の反応が大部分である。とはいえ、この日本とてアメリカという国とほぼ変わらないようなところもあるのであって、他人事のようには見えない感じもする。
この作品をして、現代政治、現代社会への風刺と見ることもできるであろう。ドナルド・トランプがもたらした政治、社会。あるいは、新型コロナウイルス感染症がもたらした分断。「見ることもできるだろう」ではなく、そうとしか見えないか。それもある。というか、それが引き起こす悲喜劇である。コメディというには暗すぎる。だが、暗すぎるコメディがこの現代なのかもしれない。
SF的な描写については文句なしによかったと思う。このようであれば、『三体』の映像化もやってくれるだろうと、また『三体』のことを思い浮かべた。演者たちもそれぞれにその役割を見事に演じていたし、これってけっこうすごい映画なんじゃないのか、と思った。
「これってけっこう」と思ってしまうのは、おれがNetflixにて、自宅テレビで観たというところもある。映画館で観たら、そういう遠回しな表現をしなかったかもしれない。それはある。でも、その上で言うけれど、Netflixに契約している人ならば、これを観ないのを損だぜ。なにも何シーズンも続く長大なドラマではない。二時間とちょっとの作品だ。それでも、これだけ描いてくれる。べつにSFが好きでなくてもいい。ディカプリオ目的でも、メリル・ストリープ目的でもいい。きっと、ある種の満足と、この世の底の抜けた現状について感じるところがあるはずだ。たぶん、きっと。