母とガンダム

 おれはだいたいガンダムと同じ年に生まれた。なので本放送をリアルタイムで知る由もない。かといって自分がガンダムの世代であるという感覚はある。SDガンダム。ガン消しにカードダス、SDガンダムのゲーム。ガンダムにまつわるなにかについて、小学生の間などずっぽりはまりこんでいた。SDではあるが、たくさんのプラモを作り、モビルスーツモビルアーマーの名前を知った。
 ストーリーはいつ知ったのか。おそらく、再放送やレンタルビデオの形でいくらかは見知っていたはずだろう。だが、おれの中では富野由悠季による小説版によって知った、という思いが強い。小学校高学年、性描写に敏感な思いもする。しかして、ビジュアルはSD、ストーリーは小説という妙なガンダム観を持つおれができた。
 では、その小説版にはどう触れたのか、という話である。家にあったのだ。おれに年上のきょうだいはいない。だれのものか。母のものだった。母はガンダムの小説版を読んでいた。一度にあったかどうか忘れたか、ゼータ、ダブルゼータガイア・ギアもあった。
 母とガンダム。「アニメを先に観たのか? 小説が先か?」と聞いたことがある。アニメが先だという。子ども、すなわちおれと弟が夢中になるアニメを見て気になったのか? それとも元来アニメ好きだったのか?
 後者はあまり考えにくい。おれと弟が中学、高校と進むたびに増えていく週刊少年漫画誌を読んでいた。自分でモーニングも買って読んでいた。しかし、アニメというのは彼女の生活にいっさいなかったように思う。おれら兄弟が見る後ろから見ていたことはあるだろうが、子供ができる以前、あるいは結婚以前アニメが好きだったという話も聞いたことがない。ひょっとしたらそうだったかもしれないが、なんの証拠もない。
 ただ、「最初のガンダム以外興味はない」と言うのは聞いたことがある。そして、ガンダムシリーズも、それ以降は「面倒くさい」と。それでも一応は『逆襲のシャア』あたりまでは見たり、読んだりはしたのだろうが。……ひょっとすると「最初の」はアムロとシャアをめぐる話を指すのかもしれない。
 母とガンダム。アニメ好きという趣味の中の一つとしてのガンダム、ではない。あるいは、SFファンとしてのガンダム、でもない(母は海外ミステリーを好む。和洋問わずSFのたぐいを読んでいるのは見たことがない)。ただ、母は1stガンダム、なのだ。そういう作品との付き合いがあったっていい。
 おれは今年で35歳になる。母は60歳を超えているだろう。そして、おそらくは「サイコミュ」や「ファンネル」がなにを意味するか多分知っている。「ククルス・ドアンの島」と言われてもわからないだろうが、富野由悠季の描いてみせた宇宙観、人間観、そしてニュータイプというものを、なんとなくはわかっているだろう。大人でも楽しめる深さがある、と言っていたものだ。
 なかなかすげえな、と思う。母もすげえが、ガンダムはすげえ。そしてまだ生きている。『ガンダム Gのレコンギスタ』なんてのが予定されている。母は見ることがないだろうが、おれは見るだろう。おれとガンダムガンダムとだいたい同い年のおれ。もし60歳まで生きたとして、おれの中にどれだけガンダムが残っているだろう? 想像もできない。初代ガンダムと女性人気という話をニ、三日前にネットで見かけて、そんなことを思った。