セリーヌ『北』を読む

セリーヌの作品〈第8巻〉北 上巻

セリーヌの作品〈第8巻〉北 上巻

セリーヌの作品〈第9巻〉北 下巻

セリーヌの作品〈第9巻〉北 下巻

……その証拠に例えばこの眠りだが、諸君に分かって貰うためには……十四年の十一月以来、私は瞬間的にしか眠らない……耳鳴りの奴とも折合いをつけた……そいつがトロンボーンになったり、オーケストラんなったり駅の操車場んなったりすんのを聞いてるんだ……そいつはまるで賭けみたいで!……敷布団の上で身動きするとか……ちょっとでも苛立ちの徴しを見せようもんなら、もう最後、気が触れちまいそうな騒音だ……

 という佐村河内セリーヌ先生、亡命三部作の二作目『北』を読んだ。読んだ? 読んだというにはページをめくるのが速すぎるって? いいんだ、おれにはおれの速読があるんだ。おれが読んだと思えば読んだんだ。そう言いはってやる。

 楽しみは短く、その分だけ苦労に際限はない……苦労なしには生きてけない、悲しい洒落だ……赤子の初めての悪夢から末期の汗までただもう苦しみの連続だ……そうして幕が降りる!

 ペシミズム万歳! あわれなセリーヌ。間違ったカードを選んじまったセリーヌ。でも、それは対独協力の前からずっと、この世に対して……なにかが違うんだって、そう感じてたんだろう。

《あの点点点さえなけりゃ、あいつのいわゆる“わが文体”も、そうさ、もうちっとは読まれるんだろうが!……そもそも『旅』ん時からもう読めたもんじゃない!……

 そこんところを抑えてるから、ケツに銃殺刑の判決貼られても生き延びて、作品を発表できた。たぶんそういうこったろう。おれには文体が『旅』からあと変化してるかどうかもわからんけどさ。

……藁屋根の家並み……なんでも直ぐに《うち》んなっちまうことは……どんな嫌なことでも……馴れちまうのさ、安らぎが欲しいんだ……監獄ん中だって同じだ、房を変えられると、元の房が懐しい……他処へ移すってのは酷なもんだ……別の穴に……

 それでもう、わりともう、セリーヌの愚痴も聞き飽きたぜっていうのも本音なんだけどさ。

 恰度マドモワゼル・マリーがやって来た。私の秘書だ……どう思うか彼女に訊いてみた……
《そうですね……先生の本は……『旅』から後……
 ―『旅』から後?
 ……あまり期待なさらない方が……

 そんでもおれは全部読むって決めたんだよ。道順通りか、寄り道しながらか、『リゴドン』に向けて……。

>゜))彡>゜))彡>゜))彡

夜の果てへの旅〈上〉 (中公文庫)

夜の果てへの旅〈上〉 (中公文庫)

夜の果てへの旅〈下〉 (中公文庫)

夜の果てへの旅〈下〉 (中公文庫)