テッド・チャン『あなたの人生の物語』を読む

あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

あなたの人生の物語 (ハヤカワ文庫SF)

あなたの人生の物語

あなたの人生の物語

 まだ読んでなかったの? と自分に言いたくなるが、読んでなかったものは読んでなかったのだから仕方がない。だいたいおれは短編が嫌いじゃないのに、短篇集を手に取るのはなぜか嫌な気分になるのだ。できるだけ一つの世界にながく没入していたいという思いがあるんだ。でも、実際のところは短編が持つアイディア一発の切れ味を愛してやまないのだ。手に取るには抵抗があり、手に取れば愛すべきもの。それがおれにとっての短編であり、短編集だ。
 とは、当然のことながら優れた短編集じゃなきゃそんな感想は出てこない。じゃあ『あなたの人生の物語』はどうだったの? といえば、それはもう優れた短編集なんだ。間違いはないよ。表題作もいいが、おれは最初に載ってる「バビロンの塔」も好きだな。うん、ほかもいろいろの角度からスパッとやってくれるよ。間違いない。おれは今疲れているのでそれ以上の感想は引き出せない。
 しかしなんだろうね、「あなたの人生の物語」。ファースト・コンタクトものだ。ファースト・コンタクトものというのはいろいろとおもしろい。というか、われわれ人類も(こっからテッド・チャンから話逸れます)ファースト・コンタクトをやってきた存在だよな、と。たとえば、英語のようなある程度普及した言語の教育を受けていない二人の人間を一つの部屋に入れて、さてどうなる? とか気になるところではある。言語学とかそういった学問の領域では、そういう実験とかやってるんだろうかね。なんちゅうか、西洋文明の人間がヤノマミ族を訪れるという一方的なものではなく、なんか五分五分みたいな感じで。そんで、そうなると、どうなるのだろうかね。やっぱり、まずはお互いの名前から始まるのかね。私は何ものであるか。それはどのような言葉で表されるのか。あなたは何ものであるか。それはどのような言葉で表されるのか。そして、それぞれがどのようなところからやってきたのか、という話になるのだろうか。興味深い話だ。言語学か何学かわからぬが、そういう実験を目にする人間が羨ましいと思う。というか、そういう研究があるとすれば、読んでみたいものである。とはいえ、実際のそれが「あなたの人生の物語」よりおもしろいかどうかはわからないのだけれど。