
- 作者: ロードダンセイニ,小林晋
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2009/03/06
- メディア: 新書
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スメザーズというのがわたくしの名前です。わたくしは皆さんが小男とおっしゃるような男で、商売の方もこぢんまりとやっています。肉や塩料理にかける調味料ナムヌモの販売のために旅をしています。天下に名高い調味料と申しても過言ではございません。本当に良い品で、身体に悪い酸は入っていないし、心臓に悪いなんてこともございませんから、売り込むのは簡単です。
おれはダンセイニ卿がミステリーを書いていたなんて、まるで知らなかった。おれにとってのダンセイニはファンタジーの人である。稲垣足穂が敬愛するダンディである。まあ、べつにミステリーがダンディであってもいいのだけれど。
というわけで、「そういうのもあるのか」と手にとってみた本作、どんなものだったか。一言でいえば……凡庸? おれもいくらかは新本格だのなんだのを読んでいた時期もあるし、なにせこれが書かれた時代も古い。もっと凝ったもの、グロテスクなもの、バイオレンスなもの、ノワールなもの、社会派なものと、いろいろとミステリーを読んでしまっているからそう感じる。もしファンタジー×ミステリーというダンセイニ掛け算の成果だったら別だったかもしれないが、あくまで短編ミステリ集である。ありがちな、といってもいい短編集である。
とはいえ、ただ単にそのようなものであったならば、こちらの方面のダンセイニ作品が邦訳され、今に残っているわけもない。どうも「奇妙な味」というものに分類されるらしい。
まあ、言われてみればたしかに「二壜の調味料」は奇妙な味がするかもいしれない。語り手のスメザーズ、安楽椅子探偵のリンリーさん。ある女性失踪事件の真相は……。まあそんなものだろう、というネタではある。ただ、ラストは見事に決めてきた。まあだから、短いものだし「二壜の調味料」だけでも読めばいいんじゃないでしょうか、と。
と、しかしまあ見逃せないというか、いいなあと思うところがあって、それが冒頭に引用した「ナムヌモ」にほかならない。ダンセイニのネーミングセンスというのは(英語の質感なんぞ知る由もないが)たいへん素晴らしく、この「ナムヌモ」も奇妙な味がある。そして、スメザーズが出てくるたびに「ナムヌモ」の話をするし、「ナムヌモ」がキーになる話もある。「ナムヌモ」好きかもしれない、と思う人は全篇読めばよろしいんじゃないでしょうか、と。いや、全篇スメザーズ/リンリーものではないけれど。おしまい。
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