シネマ・ジャック&ベティに行くのはずいぶんひさしぶりだった。レジに新機能が取り入れられ、入場券が発行されるようになった! これには驚いた。
それはそうと『バードマン』である。おれはこの映画について、次の4点の予備知識を持っていた。1.元スーパーヒーロー物の俳優がなにかするコメディである(実際の役者と二重写しになっている)。2.アカデミー賞とかたくさん獲った映画である。3.擬似ワンカット(?)、擬似長回し(?)のような手法が取り入れられている。4.日本版ポスターが一部でディスられていた。以上。
本当はもう1点予備知識があればよかった。ペラのパンフレットにも書いてあることだ。主人公がブロードウェイの演劇で再起をはかろうとするのだが、その演題がレイモンド・カーヴァーの「愛について語るときに我々の語ること」を脚色したものだということだ。なんということだろう。おれはカーヴァーが好きだ。たとえ「60年前」の短編だとしても、なんだとしても、それは事実だ。そしてもうひとつの事実があって、おれは読んだ小説の中身をスカッと忘れるたぐいの人間だ。台本を一度見れば覚えちまう誰かとは違う。とはいえ、「愛について語るときに我々の語ること」なんて短編集の(カーヴァーは短編しか書かなかったと思うが)の標題だし、こんなに印象的でパクりたくなるタイトルも少なかろう。なあ、村上春樹さん。村上さんはどうでもいいが、カーヴァーが現代アメリカでどのような立ち位置なのか少し気になりはしたか。あるいは村上さんくらい有名だったのか、そうでもないところを突いてきたのか。このあたりは現代アメリカ人でないのでわかりません。まあ、監督も現代アメリカ人ではないのだけれど。
というわけで、おれは舞台のシーンを見ながら「カーヴァーにこんなのあったっけ?」というのが気になって仕方なかった。まるで知らないほうがマシだったかもしれない。もちろん帰宅後に「愛について〜」を確認したさ。なるほど、ジンを飲んでる。でも、最後はああいう脚色にしたのか。しかし、どういう流れで? まあいい、本題じゃないんだ。本題じゃないけれど大切なこと、のようにも思えるが。
というか、なんだ、おれは基本的にアカデミー賞でもネビュラ賞でもなんでもいいが、賞をもらっている作品というのはなにかしら見どころのあるものだと思っているし、本作もそれに値するとは思う。思うが、アカデミー賞最多4冠というのはちょっと貰いすぎか、という気もしてならない。べつにけなすわけじゃあないけれど、ひょっとしてなんというか、映画業界やショービジネス世界の内輪受けする作品じゃあないのかな、と。カーヴァーが作家受けする作家だったのと同じように、業界あるある的な部分がリアルで、どっかのだれかの心にグサッときたのかな、って。
いいや、もちろん、主演はじめとして、その娘のエマ・ストーンもよかったし、エドワード・ノートンもよかったさ。でもね、おれは彼らが「新旧アメコミキャスト」であることをペラのチラシで知るのみで、そこんところを知っている人とは距離感が違うかもしれない、というのはあるんじゃねえのかって思ったな。
そんでもって、擬似長回し風、これは良し悪しあるなというところ。悪しから言うと、とにかく疲れた。もちろん、その日の体調だの座席のすわり心地だのいろいろあっての疲れなのだけれど、なんとなく犯人は切れ目ないこの演出方法だろ、と言いたくなった。が、一方で、カットが入って(という言い方でいいのかな?)場面転換してしまうと、面白み、虚実入り交じるような不思議な世界を損なうかもしれないな、というところだ。人生の、人間のあれやこれやを笑いもシリアスも込みで流れていくその感じというもが、このやり方にピタッときてるぜって思うのだ。
そして、なぜか字幕が黄色かった。
調べてみたらこんなんでてきた。悪くなかったと思う。
うん、悪くなかった。絶え間ないスピードの中で、コミカルな狂気、あるいはささやかだけれど大切なことが描かれている。ドラムが刻んでいく。そしてラストへ。ラストの解釈をどうとるか。さあ、それも実際にご覧あれ、というところ。おしまい。あ、あと、エンドロールでテス・ギャラガーの名前を見つけた(誰々に捧ぐ、みたいなところ?)。まあ、べつにいいけど。
>゜))彡>゜))彡>゜))彡

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……当然のことながら(!)、内容はあんまり覚えていない。感想文を見ても思い出せない。役に立たないやつだ。