おれも人の金で海外旅行してえなぁ ―村上春樹『ラオスにいったい何があるというんですか?』を読む

 

村上春樹の紀行文集である。熊本を除いては海外である。かつて住んでいたボストン、イタリア、ギリシアの話もある。タイトルの「ラオスにいったい何があるというんですか?」は村上春樹の言葉ではない。村上春樹ラオスに行く前に、ベトナムベトナム人にい言われた言葉である。ラオスにいったい何があるかは本書を読まれたい。「おれ、村上春樹の文章うけつけえねえよ」という人でなければ。

まあしかし、村上春樹というのも実に村上春樹的だなという感想はある。おれはつねづね「村上春樹は過村上評価されている」と思っていて、そんなに「やれやれ」とか言いながら双子の女の子と寝たりしねえだろって感じなのだ。なのだが、実際に作品を再読したりすると、「やれやれ」と言いながら寝たりしているので、あれ、やっぱり世間の村上春樹的な村上春樹というのは村上春樹なのかな、と思い直したりする。猫好きを自称して、世界の猫とふれあいすぎだろと思ったりもする(たんにうらやましいだけ)。

 昔ながらの木造漁船を造る小さな造船所から、とんとんという木槌の響きが聞こえてくる。どことなく懐かしい音だ。規則正しい音がふと止み、それから少ししてまた聞こえる。そういうところはちっとも変わっていない。その木槌の音に耳を澄ませていると、二十四年前に心が戻っていく。当時の僕は『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』という小説を書き上げ、次の作品『ノルウェイの森』の執筆に取りかかることを考えている三十代半ばの作家だった。「若手作家」という部類にいちおう属していた。実を言えば、自分では今でも「若手作家」みたいな気がしているんだけど、もちろんそんなことはない。時間は経過し、当然のことながら僕はそのぶん年齢をかさねた。なんといっても避けがたい経過だ。でも灯台の草の上に座って、まわりの世界の音に耳を澄ませていると、あの当時から僕自身の気持ちはそれほど変化していないみたいにも感じられる。あるいはうまく成長できなかった、というだけのことなのかもしれないけれど。

「懐かしいふたつの島で」

この、作家の「若手作家」感にうまく付き合えない人ってのもいるかもしれないな、なんて思ったりもするのだけれど。あ、おれ、最近の長編、長すぎて読めていないです。

で、おれも海外旅行とかしてえなぁ、と思ったのかどうか。正直なところ、人の金で、通訳、ガイド、ボディガードがいたら、それもいいよな、などと思った。ホテルの予約とかも全部済んでる。そんなんで。

というのもおれは、日本という国から一歩も出たことがないし、生涯で飛行機に乗ったのも三回。札幌で生まれて乳幼児の時分に関東に来たのが一回。大学一年生のころ、サークルの旅行で北海道に行って帰ったので二回。これだけだ。

だからおれはもう飛行機の乗り方もしらないし、海外というのも想像がつかない。海外は怖い。銃で撃たれたり、人種差別されたり、悪徳警察官に麻薬密輸の嫌疑をでっち上げられたりするに違いない。おれ一人では泣いてしまう。だから、ガイドやボディガードに護ってもらう必要がある。そうじゃないか。

 旅っていいものです。疲れることも、がっかりすることもあるけれど、そこには必ず何かがあります。さあ、あなたも腰を上げてどこかに出かけて下さい。

「あとがき」

まあ、それはそうなんだろうけどね、それでもおれの腰は重いのよ。非常事態、自粛、とか言われたら、それこそもう横浜市中区から一歩も出なくても平気というか、もとからそういう人生を送ってきたんだしな。

でも、おれにも奇妙な旅というものがあって、いきなり新幹線の切符とホテルの予約が送りつけられてきたのだ。「よかったら旅行して、ブログになんか書いてくれ」という。これはまじりっけなしの本当に奇妙なできごとで、そうでもなければおれは奈良の當麻寺で奇妙な祭りを見ることもなかっただろう。いや、本当なんですよ。

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さて、ここまで書けばわかるだろう。顎足付きでさらにガイド付きでおれを海外旅行に連れて行けという話である。おれは村上春樹ほど村上春樹っぽい紀行文は書けないけれど(当たり前だ)、ブログになんか書くくらいのことはする。それ以外のことはしない。われながら、なに書いてんだという話だが、まあこれもコロナ禍であたまがおかしくなってしまった(もとからおかしいからなんか手帳とか持ってるんだけど)の戯言である。

ところで、おれは死ぬまでに日本という国から一歩も出ないのだろうなという確信があるのだけれど、どうなると思いますか?

  1. 日本から一歩も出ない
  2. なにかすごいことが起きて外国に行く
  3. 日本という国の国境がどうにかなっていきなりここが日本でなくなってしまう

 

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……村上春樹の小説で一番好きなのはこれです。

 

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