- 作者: 上原善広
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とはいえ、こちらは日本の「被差別の食卓」として出てくるのはやはり「あぶらかす」、「さいぼし」であって、行動範囲は『日本の……』どころではない。アメリカ、ブルガリア、イラク……、世界の「被差別の食卓」なのだ。そこに、ある程度成長するまで自分が食べているものが被差別の食べ物だった=自分が被差別民だったと知らなかったというような共通点、あるいは食材の共通点がある。
ちなみに、『日本の……』では中上健次の「路地」という言葉を用いていたが、それより以前のこの本ではいっさい使われていない。自身の出自も「むら」としている。
話は日本から始まる。著者の「むら」の食材としての「あぶらかす」、「さいぼし」からだ。そして、話はアメリカへ飛ぶ。アメリカの被差別……いろいろあろうが、ここで採り上げられているのは黒人の「ソウルフード」である。
ポークフィートとは、豚足を煮たものである。実は豚足はそう好きでもなかったが、沖縄の「足てびち」と同じようなものだろうと、一度食べてみたかったのだ。しかし、黒人以外では注文しないので、ハーレムで臓物の煮込み、チトリングスを注文したときと同様に、驚かれてしまったのだ。
ポークフィート。見覚えがある。とはいえ、おれは日本から出たこともない。沖縄に行ったこともない。フィクションの中である。豚足の煮込み。あれはそう、映画『プレシャス』……と、感想を検索したが出てこなかった。日記以前に観たのだろうか?
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して、ケンタで世界中を席巻しているフライドチキンも、もとはといえば「ソウル・フード」であったという。「黒人奴隷料理の代表」という。作者も意外に思っていたが、おれも意外に思った。なんでも、白人が食べないような鶏の部位を、骨まで食べられるように長時間揚げたものがルーツという。また、そうしたほうが満腹感が得られ、カロリーも高い。日々の重労働に適したフード、なのである。
と、ここでまたおれは映画『プレシャス』を思い起こす。母親も太っていた。娘も太っていた。アメリカでは(あるいは日本でも)下層階級ほど肥満だというが、安価なジャンクフードばかりの影響ではなく、「ソウルフード」のたぐいが、高カロリーに由来するのではないか、などと想像した。もちろん、チェーンや出来合いの安価なジャンク・フードの影響は大きいだろうが、高カロリーの「ソウル・フード」もあるのではないか。貧しい黒人のおかれた状況は変わらない部分もあるだろうが、高カロリーを必要とする重労働という点では変化があったかもしれない……おれの憶測にすぎないが。
話は飛んでフェジョアーダ。ブラジルである。アフリカから連れてこられた黒人奴隷の「被差別の食卓」。へんな話だが、検索してみれば、どこまで本場に近いかわからぬが、横浜市内でもフェジョアーダを提供する店がある。一方で、同じ日本の「あぶらかす」や「さいぼし」は通販で買うとなるとえらく高い。関西に食べに行くにしてもえらく高い。変な話ではある。 まあちょっと分量がわからないが、そんな印象はある。
そしてまた本書にもどれば、ブルガリア、そして湾岸戦争直後のイラクのロマの話になる。やはり著者は日本の差別階級制度も、ヨーロッパやアラブの差別も、もとはインドあたりのカーストがルーツだと述べているが、その話の出どころはよくわからぬ。とはいえ、路地と離れた路地がつながっていたように、ヨーロッパと極東の階級制度が(制度としての)同根であるというスケールにはなにか興味をひかれる。なにか専門的な本をあたればよいのだろうか。
また、最近ではインドで牛肉食をしたと噂された人たちが襲われるなんてニュースがあったと思うが、ネパールではその牛肉食をするカーストを訪れている。日本のインドカレーの店の割合多くはネパール人という話と聞いたことがあるが、ネパールも厳しく、細かいカーストがある。それゆえに世界に出てくる点もあるのか、あるいはやはり国外に出て行くのは高いカーストなのだろうか、そのあたりはよくわからない。ちなみに、ネパール人は名前でカーストがわかるようになっているとのことである。
そしてまた話は日本に戻る。
余談だが、西日本のむらにあるお好み焼き屋では、ホルモンを入れることが多い。
毎日のようにお好み焼きを食べているおれは、もちろんスーパーで売っているボイルされたホルモンを入れたこともある(ちなみにそのスーパー、というか食品館あおばでは中華街が近いせいもあるのか豚足からハチノス、モツ、時期によってはまるごとの子豚まで売っている)。そうか、西日本の「むら」では多い話だったのか。本場ではホルモンに下味をつけるのだろうか。気になるところではある。
ホルモンといえば、おれがはじめて食したのはいつだろうか。母は相当に癖のない食を好んだので、家で出たという記憶はない。おそらくは大井競馬だろう。赤モツ、白モツ、両方頼めばおばちゃんが「紅白」と言う。むむむ、なんだか無性にモツが食いたくなってきた。というあたりで、おしまい。
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