『あゝ決戦航空隊』を観る

あゝ決戦航空隊 [DVD]

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 冒頭、戦死とされていた一式陸攻の乗組員たちが捕虜となっていて、それを奪還した、という話から始まる。普通は捕虜を奪還すれば喜びそうなものだが、大日本帝国にとっては困ったことなのである。死して虜囚の辱めを受けず、の国なのである。もう戦死と発表していた乗組員たちの存在は迷惑ですらあったのだ。結局、その乗組員たちは直掩機もなしに一式陸攻一機で敵襲をかけることになり、最後は自爆して果てる。否、果てさせられる。組織的「特攻」以前の特攻、である。
 この案件に対して、たしか組織的特攻の発案者とされ、本作品の主人公とも言える大西瀧治郎は反対していた、のだっけ。なにせ長い映画なので忘れてしまった。とはいえ、大西は特攻にこそ道はある、日本民族の意地だという方向に進む。捷一号作戦のみの命令から、組織的で恒常的な作戦となってしまう。それに大西は苦しむが、戦争というものは暴れる牛のように進みだしたら止まらない(って今しがた見た『真田丸』の台詞か)。このあたり、どうだったのだろうか、そうだったのだろうか、よくわからない。
 よくわからないといえば、この作品の題字を書いたのは、児玉誉士夫である。児玉機関の児玉さんとして作中にも出てくる。そして、一方でこの作品の脚本は笠原和夫である。右翼の大物、フィクサーが深く関わる一方で、天皇の戦争責任を問うような感じのある笠原(たしかそうだったよな?)、このあたりは妙にねじれていて面白い。特攻絶対反対の三〇ニ空の小園安名を菅原文太が演じていて、金子信雄演じる上官に食ってかかるシーンも面白い。面白いといっていい題材の映画とはいえないが、スケールの大きさ、長さ、出てくる俳優陣の多さに圧倒されるというところはある。「軍神」関行男のエピソードから、厚木基地事件、そして大西の切腹まであるていど細かく描かれている。全部盛り込んでやれ、という感じすらする。あ、けど宇垣纏の「私兵特攻」は描かれなかったか。まあ、太平洋戦争全部、というのは無理がある。航空隊の全部というのも無理がある。
 とはいえ、アメリカ軍は損耗率で物事を考えるから、二千万人特攻で引き分けに持ち込めるとか、最後の九十九戦負けても最後の一戦に勝てばいいとか、狂ってるものが狂っていない世界。イタリアとドイツが先に負けて、全世界を敵に回すことになった異常事態(いまの北朝鮮みたいなものか)、そいつは伝わってくる。その中で、理不尽に死を命じられる男たち。描かれはしないが、空襲で死んでいく銃後の人々。時折入ってくる菊の御紋に宣戦布告に玉音放送。見応えは、ある。とくに後半の菅原文太にしびれる。そんなところ。以上。

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