「カップルにも観て欲しい」〜衝撃作『葛城事件』赤堀雅秋監督に聞く (1/2)
本作は赤堀氏による舞台作品を映像化したもので、抑圧的に家族を支配する葛城清(三浦友和)を中心に、一家が崩壊していく過程を衝撃的に描く。
少しずつ精神を病んでいく妻・伸子(南果歩)、仕事での人間関係に悩み続ける長男・保(新井浩文)、そして無差別殺人を起こしてしまう次男・稔(若葉竜也)は、反省の色を見せず、早期執行を訴える…。
三浦友和演じる父親がみごとにラーメンが獣臭く、作品全体もラーメンが獣臭く、いかんともく救い難く、そうとうにおすすめできる映画といえる。
それにしても三浦友和、だ。おれはなんとなくあまり好きな俳優ではなかった、というか、作中の三浦友和像みたいなものがあまり好きではなかったのだが、『アウトレイジ』で「お?」と思い、本作で「おおおー!」と思ったのだ。抑圧的に家族を支配する昭和男、自分の正しさをまるで疑おうともせず、店で大声を出す団塊の世代(かどうかはわからんが)。……って、うちの親父もこんな感じだったな。
そう、そこらにいる平凡といえば平凡な家族。だが、軋みがあって、ヒビが入っていて、それが崩壊する。それを鮮やかといってはなんだが描いていく。描いていく、といっても時系列はバラバラだ。でも、画面が引きつけるから混乱することもない。みごとなものである。そして、「新井浩文の出る映画はだいたいおもしろい」というおれ説も当てはまった。やや細めの新井さんの、鬱になっていく感じなど名演だ。妻役、弟役も浮いたところがない。
そして妙にものを食うシーンが多い。食い物に関する話が多い。翌朝の宅配ピザ、コンビニ弁当、コンビニ弁当、スナックで届かなかった寿司、「なにか店屋物でもとるか?」、カップラーメン、コーラ。
と、ふと違和感というか、まあ無差別大量殺人をテーマにしていて違和感もあったものかというところだが、まあなんかこの人はなんだろう、と思わせるのが田中麗奈演じる女性。殺人犯となり、死刑判決を受けた次男と結婚する。「死刑制度反対」が理由なのだが、そういうばかりで彼女のバックボーンは多く語られない。家族とも今回の件で縁を切ったというだけだ。視聴者の目、の役割なのかもしれないが、それにしても彼女自身が何者であるか、というところは考えずにおられない。そして、縁を切ったという家族もまたラーメンが獣臭い人間がいたのかもしれないと想像したりする。あの闇、その闇、みんな病みながら繋がり、広がっていくのだ。この世はラーメンが獣臭すぎる。