承前。
六月の最後の週だったかどうか、一枚のプリントがおれの郵便受け……というか、ドアを通して入れられ、靴の上の落ちてた。内容は、近く近くで建物の解体工事が行われる。音が出るが勘弁してくれ。日曜祝日は工事しない。そんな内容だった。
おれは、ついに来たか、と思った。地主一家の家庭内解体が終わり、解体業者による解体が始まるのだ。
小さな青い実をつけたカキノキよ、おまえは明日か明後日、長くても今月の終わりまでには伐られてしまい、なにも残らない。 pic.twitter.com/0MksgDTzGL
— 黄金頭 (@goldhead) July 1, 2019
そして。
近所の解体される空き家。今朝は業者が来てなかったので、まず下調べかと思った。思って、仕事して、帰ってみたら、もう二階が無くなってた。土曜も工事するらしいので、早く終わるのはいいが。 pic.twitter.com/dDdD1dkEJe
— 黄金頭 (@goldhead) July 2, 2019
一日一日、家が消えていく。あまりの早さに驚いた。おれが朝の九時過ぎにアパートを出るころには、もう解体作業が始まっている。
解体作業に来ているのは……国籍はわからないけれど、外国から来た人のように見えた。そして、外国から来た人しかいないように見えた。
車一台入るかどうかの路地ギリギリにトラックを寄せて、それでも人一人と自転車一大が通れるだけの隙間を残して。
ある日の帰り、この家の前を小さな生き物が走っているのを見た。ヤモリであった。守る家がなくなって途方に暮れているのかもしれない。
しかしまあ、ずいぶんと乱暴に壊されていく。とはいえ、今気づいたのだが、ここに重機は入れない。人力とチェーンソーかなにかで解体しているのだろうか。そのわりには、早い。
ずいぶんとスカスカになっても、柿はまだ伐られていなかった。「ひょっとして、この柿を残して建て替えでも?」などと思わないでもなかった。
すっかり家屋が片付けられても、しっかり根を張り、立っているじゃないか。
と、思った日の帰り、柿は倒れていた。
柿、青々とした葉をつけたまま、横たわる。
こればかりはどうにもならない。というより、この世の中はどうにもならない「これ」ばかりで作られている。人間は日々失望の領域だけを広げて、その果てに何も残せずに死ぬ。
そして、次の日にはなくなっていた。どのように細い路地を運んだのだろうか。運ぶ前に細かくしたのだろうか。
切り株の上にペットボトル。
道に落ちていた、小さな実を拾った。