予告された柿の木の死

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承前。

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六月の最後の週だったかどうか、一枚のプリントがおれの郵便受け……というか、ドアを通して入れられ、靴の上の落ちてた。内容は、近く近くで建物の解体工事が行われる。音が出るが勘弁してくれ。日曜祝日は工事しない。そんな内容だった。

おれは、ついに来たか、と思った。地主一家の家庭内解体が終わり、解体業者による解体が始まるのだ。

そして。

一日一日、家が消えていく。あまりの早さに驚いた。おれが朝の九時過ぎにアパートを出るころには、もう解体作業が始まっている。

 

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解体作業に来ているのは……国籍はわからないけれど、外国から来た人のように見えた。そして、外国から来た人しかいないように見えた。

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車一台入るかどうかの路地ギリギリにトラックを寄せて、それでも人一人と自転車一大が通れるだけの隙間を残して。

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ある日の帰り、この家の前を小さな生き物が走っているのを見た。ヤモリであった。守る家がなくなって途方に暮れているのかもしれない。

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しかしまあ、ずいぶんと乱暴に壊されていく。とはいえ、今気づいたのだが、ここに重機は入れない。人力とチェーンソーかなにかで解体しているのだろうか。そのわりには、早い。

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ずいぶんとスカスカになっても、柿はまだ伐られていなかった。「ひょっとして、この柿を残して建て替えでも?」などと思わないでもなかった。

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すっかり家屋が片付けられても、しっかり根を張り、立っているじゃないか。

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と、思った日の帰り、柿は倒れていた。

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柿、青々とした葉をつけたまま、横たわる。

こればかりはどうにもならない。というより、この世の中はどうにもならない「これ」ばかりで作られている。人間は日々失望の領域だけを広げて、その果てに何も残せずに死ぬ。

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そして、次の日にはなくなっていた。どのように細い路地を運んだのだろうか。運ぶ前に細かくしたのだろうか。

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切り株の上にペットボトル。

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道に落ちていた、小さな実を拾った。