慰藉的な、余りに慰藉的な

おれは高卒の割に本を読んでいて読めぬ漢字、意味のとれぬ言葉に出会うことは少ない。とはいえ、渡辺京二など読んでいると「?」となる言い回しに面食らうことがある。

そして、昨夜はこれであった。「『試みの岸』評釈」より。

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「慰藉的」? 「いせきてき?」……わからん。わからんのでiPhoneで調べて「いしゃてき」であることを知った。ゾピクロン飲んだあとに我ながらよく動けると思う。指先だけだが。

そして今朝のことである。ちんたらシャワーを浴びながら脳内のデフラグをしているとき、ふと「あの慰藉って、慰藉料の慰藉じゃねえのか? 慰藉料って書いてあったら絶対読めたわ! 意味もわかったわ! 三つの漢字がセットで記憶されてんだな!」と思ったのである。いや、そういうこともあるものか、と。

と、会社に来て真っ先にGoogleに「いしゃりょう」と打ち込んでみて、おれは打ち震えた。「慰謝料」。そう、「慰藉料」が本来だが、通常使うのは「慰謝料」じゃないか。シャワーを浴びていた全裸のおれは「謝」のことなどすっかり頭になかった。となると、「あの慰藉って、慰藉料の慰藉じゃねえのか?」というのも、「いしゃ」の読みからくる後付けである可能性すら出てくる。でも、「慰藉料」に見覚えがないわけでもないし。ただ、「慰藉料」だと前後の文脈から読めちまうよな……とも。

で、気になったのが「藉」の字のことだ。「籍」じゃないよ、「藉」だよ。草冠だ。どんな意味があるのか。


藉とは - コトバンク

「せき」とも読む。「しく」、「かりる」、「かす」ともある。「かこつける」ともあるし、「いたわる」ともある。慰藉は最後のだ。

受肉 - Wikipedia

さらには、キリスト教のこれを「正教会では藉身(せきしん)と訳される。これは「身を藉りる(かりる)」と読み下すことができ、キリストが身をとったことをより能動的に表している。そうじゃないか。そして、『漢字源』を出典としてこんな注釈がついている。

「藉」と「籍」は別の字であり、前者は草むしろを敷きその上に乗ることから、動詞として「かりる、かさねる」といった意味をもち、後者は文字を書いた竹札を重ねて保存したものを指すところから、動詞として「記入する、農具ですく」といった意味をもつものである。出典:『漢字源』1013頁、1154頁、学研、1996年4月1日改訂新版第3刷

というわけで、草むしろあたりだから草冠で、なんか敷いたり重ねたりするんだろう。だが、なんかやまとことばに当てはめるときの用例の散り方が気になる。

あと、こんな言葉もある。

ろうぜき【狼藉】の意味 - 国語辞書 - goo辞書

狼藉の「藉」でもある。これによると『史記」滑稽伝による。狼(おおかみ)は寝るとき下草を藉(ふ)み荒らすところから』とある。「ふむ」まで出てきた。下草を指してもよさそうなもんだが、「ふみあらす」だ。ここまでくるとわけがわからない。白川静にでもあたればいいのだろうか。いや、そこまで「藉」に興味ねえからいいや。おしまい。

ところで、この不埒な指摘者は「慰籍的」って書いてあったら気づいただろうか?