ソンブレロ落下す……おれのワールドカップは終わったぜ

 もう一度見たら、今度は勝ってるんじゃないかと思った。いや、まじで。そんで後半40分過ぎ、やっぱり勝つんじゃないのかと思った。思ったが、やはり歴史は……いや、録画は繰り返す。メキシコ代表は敗れ去った。おれはやはり呆然としてしまった。おれは日本代表以上にメキシコ代表を応援していたところがある。おれとメキシコ。とくに縁もゆかりもない。ただ、メキシコのサッカーを見ていると楽しい、ただそれだけだ。
 ただそれだけのために、会社も休もう。そのくらいの心意気である。ちなみにおれはサッカーのことすらよく知らない。それでも、そういう気になったんだ。が、いい加減な話で、メキシコ対オランダ戦は今週の半ばくらいだと勘違いしていた。「あ、今日(というか明日)じゃん」と気づいたのは23時が終わりそうなころ。上司に「メキシコ応援するんで休みます」みたいなメール送ったわけ。が、返事がない。返事が来たのが朝の5時だった。上司は寝るのが早い。起きるのも早い。そして、寝ている間はiPhoneの通知を切るようにしている。おれは3時に試合が終わったあと、完全にすやすやしているところにメールが来た。おれの返事は、おれのメール史上もっとも意味不明なものになった。

 上司は「いそいで返事をしなくては」と思ったらしいが、いそぐ必要はなかった。そう思う。
 そんな話はどうでもいい。メキシコ代表だ。

「このプレーについてだけ言われているけど、僕たちは最初の試合から常に不当な扱いを受けていた」

エレーラ監督は「疑わしいことはいつもメキシコ相手の時に起きる。このことは本当に強調しなければならない。3試合とも本当に酷いレフェリーだったよ。レフェリーに私たちはやられたんだ」とレフェリングに対して疑問を呈した。

 あまりネガティブな話はしたくないが(知らない領域だけに更に)、このドス・サントスの、エレーラ監督の言葉はどうだろう。素人目に見ても、頷けるところがある。グループリーグから、どうにも審判運に恵まれていないところがあった。おれにはそう見えた。オランダ戦でも前半19分のエレーラの顔面近くへのキックはPKでもよかったような気がするし、後半22分のロッベンの倒れ方とかもわざとらしすぎねえかと思うんだよ。負け惜しみ、負け犬の遠吠え? そうかもしれないが、やはりなんか審判運がなかったな、というところは残る。もちろん、一番大きいのは最後の最後のだ。

PKを献上したマルケスは報道陣に対し、「試合後に彼(ロッベン)と話をしたら、あれはPKじゃなかったと言っていた」と、後半ロスタイムのPKについても、ロッベンはダイブを認めていたと明かしている。なお、ロッベンはこのことについてはコメントしていない。

 おれにはなんとも言えねえよ。ダイブなのかそうじゃないのか、見極める基準が自分の中にない。サッカー知らずだからだ。だけどなんだろう、正直なところをいうと、反則を食らったのがラファエル・マルケスで……ある意味でしょうがない、マルケスがやっちまったんなら仕方ないという、妙な納得があったのも確かだ。ファインセーブを連発したオチョア、そして守備の要であり、攻撃の起点でもあるというマルケス。そのマルケスの、ここまでの貢献。悪く言えるはずがあろうかってさ。でも、悔しいよなあ。残念だよなあ。これを逃げ切れないのがワールドカップなのか。あのドス・サントスのシュートの見事さ。そして、メキシコのプレーヤーのパス回しとミドルからでも打っていく攻撃性、そしてキープ力。前半なんて完全に押してたぜ。ああ、しかし。
 というわけでおれが自分でもわからない理由でなぜか贔屓にするメキシコはワールドカップから去ることになってしまった。もう、おれにとって今回のワールドカップはほとんど興味のないものになってしまった。勝ったオランダを応援する? 冗談じゃない。そんな気持ちはみじんもない。おれはあんまりヨーロッパが好きじゃないんだ。ヨーロッパどころか、外国に行ったこともないが。もちろん、メキシコにも、だ。
 ただ、メキシコ代表のサッカーは好きだ。おれが生きてワールドカップを見られる階層にいられれば、たぶんまた出会うこともあるだろう。そのときこそは、さらなる高みに行ってくれる。おれはそう信じている。次こそは、と。

「何より悲しいのは、代表がこのレベルだったことはないということなんだ。僕らは歴史をつくる寸前だったんだよ。残念ながら、これまでのように、ベスト16で敗退するもう一つのチームとなってしまった」

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