おれの断りもなしに湘南モノレールが売却されるという。……と書いたところで、おれは大人の世界や大規模な企業の話のことなどてんでわからぬので、この売却がどういう意図のもとで決定され、今後湘南モノレールがどうなるのかについてさっぱりわからない。ただ、おれの湘南モノレールがおれの断りなしに誰かから誰かに売却されてしまうというのである。
おれの湘南モノレール。といっても、おれはもう横浜市中区の住人であって、一番よく使う交通機関はJR京浜東北線、次に横浜市バスという人間になってしまった。けれど、だ。おれは物心ついたときから湘南モノレール片瀬山駅徒歩2分、走って1分の家に住み、小学5年生から大船の日能研にモノレールで通いはじめると、中学高校の6年間も一貫して大船までモノレールを使い、2年で辞めた大学も大船までモノレールを使い、ニートになって大井競馬や川崎競馬に通うのも大船までモノレールを使ってきた人間である。おれにとって最も日常的な交通機関といえば湘南モノレールであって、湘南モノレールの通勤ラッシュも知っているし、休日の多くもなく少なくもない観光客のことも知っている。がらんごろんとレールが振動すれば、モノレールが近づいてくる気配がわかるというものだ。
それがなんだ、利用者頭打ちで売却されるというのか。江の島まで行くのに、大船まで来たら湘南モノレールに乗り換えるのが一番の近道というのに、誰も乗らないのか。わざわざ鎌倉まで出て江ノ電なんぞに乗るのか。世も末だ。それを言うならずっと末であったが……。
とはいえ、横浜に夜逃げしてきてからしばらく経ち、ごくたまに湘南モノレールに乗るたびに、がらんごろんという気配を感じないではなかった。なにせPASMOに対応していないのである。新杉田から出てるなんちゃらですら対応しているのに、いまどきこれはないだろう、という気にはなっていた。とはいえ、それは小事に過ぎぬかもしれない。新聞記事にあるように、設備の老朽化、すなわち天空を横切る偉大なるレールが老朽化してきていたら、こいつはコトだ。すごい大事かもだ。そして、その大事を三菱が手放すというのは見捨てられたということで？ 三菱電機前湘南町屋駅があるのに？
ちなみに、今おれが住んでいるアパートを紹介した不動産屋の女性は、かつて湘南町屋の三菱電機工場で働いていたという。なにか製図をする仕事だったらしいが、軍事機器に関わるものだったので、とてもものものしいところだったという。まあ、関係ないけれど。
話はなんだ、湘南モノレールか。いったいこれからどうなってしまうのだろうか。まさかお取り潰しということはあるまい。これ以上大船にモノレールの廃墟はいらない。かといって、頭打ちでは日本一高いとも言われる運賃（実際のところは知らんが）を下げるわけにもいかんのだろう。ローカル線としてはこれ以上面白い乗りもんはねえぜ、と言いたいところだが、中間点の湘南深沢に、西鎌倉に観光客を下ろしてなにを見せるというのか。おれには正直わからない。ただ、吊り下げ式の、サフェージュ式のモノレールはすげえ珍しいし、トンネルもある。江ノ電なんてのは、腰越あたりの路面の線路に自転車のタイヤが挟まって危ないだけだ。その点、湘南モノレールは空を行く。たまにクレーンとぶつかったりするだけだ。実際安全。
かくなる上は、アニメかなにかとのタイアップを目指すくらいしかないのか。……という発想がもうあかんような気がする。しかし、しかしだ、舞台としてはいいじゃないか。湘南だぞ、湘南。それに大船だ、大船には観音様もいる。文句ないじゃないの。アニメ『青い花』にも『ピンポン』にもちらっと出てきたじゃあないの。どっちもいいアニメだ。え、アニメの話はいいですか？
いや、しかし、どうなんだ。どうなるんだろう？ もはや毎日の足ではなくなってるおれには関係ないといえば関係ない。しかし、魂の根っこのところで関係があるんだ。おれが人やものを見下すように精神が形成されていったのも、モノレールの車窓あってのことに違いないからだ。……って、よくねーじゃん。おしまい。
